第四百三十四話 高橋悠里は晴菜にイヴとウェインがゲーム内で付き合うという話をした後に、晴菜にランチデート後の話を聞く



家の前で幼なじみの松本晴菜と合流した悠里は微笑んで口を開く。


「おはよう。はるちゃん。圭くんのこと、いろいろ迷惑かけてごめんね」


悠里の言葉を聞いた晴菜は首を横に振り、口を開いた。


「お兄ちゃんの暴走は悠里のせいじゃないでしょ? あたし、前に言ったことあるんだよね。『悠里がそんなに心配ならお兄ちゃんが付き合えばいいじゃない』って。そうしたら」


「そうしたら?」


「『俺は胸の大きい美人としか付き合わない』って……。本当、お兄ちゃんと血がつながっていることが恥ずかしくなった」


歩きながら空を仰いで言う晴菜に悠里は苦笑して口を開く。


「圭くんらしいけど……。でも、イヴさんの中の人は胸の大きさは控えめだったけど大丈夫かなあ……?」


「なんでここでイヴさんの話が出てくるの?」


「はるちゃん、圭くんから聞いてない? ウェインとイヴさんがゲーム内で付き合うことになったんだよ」


リアルで個人情報を漏らしても『アルカディアオンライン』でのプレイヤー善行値は下がらない。

悠里は気楽に圭とすずの個人情報を漏洩した。

全世界の発信する形のSNSでは自重が必要かもしれないけれど、仲良しの晴菜との登校中のお喋りに気を張る必要はないと悠里は思う。


「イヴさんって思い込みが激しくて押しが強い、ネットリテラシー皆無の人でしょ? なんで恋愛においてポンコツなお兄ちゃんと付き合うことになるのよ……」


「わかんない。圭くんは木曜日に告白されて付き合ってたカノジョがいたんだけど、土曜日にフラれて、日曜日にイヴさんとゲーム内で付き合うことになったんだって。でもゲーム内だけの付き合いらしいから、リアルではるちゃんに迷惑が掛かることはないと思うよ」


「情報量が多すぎる。面倒くさそうな話だし、あたし、聞かなかったことにしていい?」


うんざりした顔で言う晴菜に悠里は肯き、口を開いた。


「はるちゃん。昨日のランチデートの話、聞かせて。惚気話でも全然大丈夫だからねっ」


悠里がそう言うと晴菜の雰囲気が柔らかくなる。

晴菜は少し考えた後、悠里に視線を向けて口を開いた。


「実はね、ランチデートの帰りに拓海くんがあたしのこと家まで送ってくれたんだけど」


「そうなんだ。はるちゃんは美人だから一人で歩かせるのが心配な気持ちはわかる」


「あたしは普通に一人で歩くけど。新型コロナは怖いけど、不織布マスクして三密を避ければ問題ないと思うし」


「はるちゃんは自分が美人だっていうことに無頓着すぎるんだよっ。ちゃんと用心しないとダメだからねっ」


「今は皆、マスクを着けていて顔なんかわからないじゃない。マスクを着けてるから皆、マスクの小顔効果で美人っぽい雰囲気だし」


「それはそうかも……」


悠里もマスクの小顔効果には気づいていた。

晴菜が話を続ける。


「それでね。あたしを家まで送ってくれる途中に生徒会で拓海くんと一緒に活動してるっていう女子二人に会ったの」


「そうなんだ」


「そうしたらね、その女子二人が『皆で遊んだら楽しいから、このまま遊びに行こうよ』って。新型コロナなんだから皆で遊ぶのとか有り得なくない?」


「わかる。遊びたいけど今は我慢しなきゃいけないのはわかる」


「しかもあたしと拓海くん、恋人繋ぎで手を繋いでるんだからデート中に決まってるじゃない? なのにしつこくて……」


「うわあ。空気読まなすぎ……。それともわざと?」


「どっちにしても最悪だよね。そうしたらね、拓海くんが『今、カノジョとデート中だから一緒には遊べない。ごめんね』って断ってくれたの!!」


「氷川くん、かっこいい!! さすが、はるちゃんに選ばれた男子……。それでどうなったの?」


「女子二人は気まずそうな顔をして離れて行った。めちゃくちゃ『ざまあ』って思った」


晴菜の勝ち誇った目を見て、悠里は少しだけ恋の敗者である女子二人に同情した……。



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