第四百三十三話 5月17日/高橋悠里は寝て起きて、朝ご飯を食べて家を出る
「……寝よう」
月曜日の放課後にどうするのかは要と話してから決めようと思いながら悠里はスマホを枕元に置いて部屋の電気を消し、ベッドに潜り込む。
これまでの悠里はいつも『選ばれなかった方』だったので、恋が叶わなかった美羽の気持ちが痛いほどにわかる。
でも、大好きな要のカノジョの座を誰かに明け渡すつもりはない。それは絶対に嫌だ。
だけど、自分が嫌われるのも、自分が誰かを傷つけ続けていると知るのも、悲しい……。
そんなことを思いながら、いつの間にか悠里は眠りに落ちていた。
「悠里。悠里、起きなさい。朝よ」
……祖母の声がする。眠い。
「悠里。早く起きて。朝ご飯を食べる時間がなくなっちゃう」
「朝ご飯……」
悠里は『朝ご飯を食べなければGPがもらえなくなる』と思いながら瞬き、起き上がる。
祖母は起き上がった悠里をほっとしたような顔で見つめて口を開いた。
「よかった。起きたわね。二度寝してはダメよ。着替えてダイニングにいらっしゃいね」
祖母はそう言って部屋を出て行く。
悠里は眠気を振り払おうと首を横に振り、そしてベッドを下りて着替え始めた。
着替えを終え、スマホを通学鞄に入れて一階に向かう。
トイレに行って顔を洗い、髪を梳かしてポニーテールに結い終えた悠里は鏡を見つめた。
……顔を洗った直後だというのに眠そうな顔をしている。
こんな顔でダイニングに行って母親に夜更かしをしたことを見破られるのはまずい。
ゲーム機器没収の可能性を高めるのはダメだ。
悠里は表情を引き締めて、全然眠くないという顔をしてダイニングに向かう。
悠里がダイニングに入ると朝食を食べ終えて新聞を読んでいた祖父が、悠里に視線を向けて口を開いた。
「おはよう。悠里。今朝はお祖母ちゃんが朝ご飯を作ってくれたぞ」
「お母さんは?」
「まだ具合が悪いらしい。でも、お母さんは夜食におでんを食べたとお父さんが言っていたから心配しなくてもいいだろう」
「そうなんだ。よかった」
お母さんの食欲があるのは喜ばしいことだし、寝室でずっと寝ていてくれたらゲーム機器を没収されなくて済む。
そして悠里が心ならずも夜更かししてしまったことに気づかれることがないのはすごく嬉しい。
悠里は祖母が作ってくれた和食を食べ終え、食後の緑茶を飲んだ後、食器をキッチンの流し台に持っていく。
その後、歯磨きをしてトイレに行き、二階の自室から通学鞄を持って一階に戻る。
リビングのサイドボードに置いてあるグレーの不織布マスクをつけて玄関に行き、通学鞄を手に持ちながら靴を履いていると、祖母が現れた。
「悠里。気をつけて行ってらっしゃいね」
「うん。お祖母ちゃん。おいしいご飯を作ってくれてありがとう。晩ご飯の後の食器洗いは私がするからね」
「ありがとう。悠里。晩ご飯は悠里が好きなシチューを作ってあげるわね」
「本当!? 嬉しい……っ。シチュー、楽しみにしてるね。行ってきます」
靴を履いた悠里は通学鞄を持ち、祖母に微笑んで家を出た。
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