第四百三十二話 高橋悠里はサポートAIに相談した後にログアウトして、萌花とメッセージのやり取りをして自分が美羽に嫌われてしまった理由を知る



悠里はまだ眠れなさそうなのでサポートAIと話を続けたいと思いながら口を開く。


「サポートAIさん。質問してもいいですか?」


「どうぞ」


「私、たいして話したことが無い人に嫌われちゃったんですけど、なんでだと思いますか?」


悠里は悠里にだけ意地悪なことを言うサックスパートのパートリーダー、佐々木美羽を思い浮かべながら問いかける。


「『なんとなく気に入らない』という理由でも嫌われることはあるようです」


「そっかぁ……。私、なんとなく気に入らないカテゴリーに入れられちゃったんだなあ」


「たいていは、嫌う側には明確な理由があるようですが。高橋悠里様の年齢では、友人関係のもつれ、恋敵認定による敵視、勉強や部活等で活躍していて妬ましい等があるようです」


サポートAIの言葉を聞いた悠里は『恋敵認定による敵視』というワードを聞いて、目を見開く。


「恋敵……ええと……もし、佐々木先輩が要先輩のことを好きだったりしたら……?」


「高橋悠里様。雑談の際に個人名を口にするのはお控えください」


「あっ。そうですよね。えっと、私、ゲームをやめますね。ログアウト」


悠里の意識は暗転した。


悠里は自室のベッドの上で目を開けた。

無事にログアウトできたようだ。

ヘッドギアを外して起き上がる。


「佐々木先輩が要先輩を好きとか、めちゃくちゃあり得そうだよね……」


悠里はそう言いながらヘッドギアとゲームの電源を切り、ゲーム機器を充電する。


「なんで私、その可能性を考えなかったんだろう……。男子を名前呼びしたがるとか、好き以外無いよね。本当……」


要は中学に入る時にこちらに引っ越してきたと言っていたから、美羽と会ったのは中学に入った時で間違いない。

幼なじみや男友達を名前で呼ぶこともあるけれど、中学に入って会った同士で名前呼びしたがるのは、好意が多く含まれていると悠里は思う。


「うあああああ。私、佐々木先輩に暴言を吐かれても仕方ないかも……。私だって好きな人が自分じゃない女子に笑いかけてるのとか嫌だし……っ」


そう呟いてから悠里は首を傾げた。


「でも私、要先輩と付き合う前からめちゃくちゃ罵倒されてたと思うんだけど……。あれ? 恋敵じゃなくて気に入らなかった説が濃厚……?」


余計なことを考えてしまったせいか、ますます眠れなくなってしまった。


「佐々木先輩が要先輩に恋してるかどうか、篠崎先輩に聞いてみようかな……」


バリトンサックス担当の二年生、篠崎萌花は悠里に意地悪な美羽と仲が良い。

事情を知っているかもしれない。


「篠崎先輩にメッセージを送ってみよう。私、佐々木先輩にめちゃくちゃ意地悪されてるから事情を知る権利、あるよね……」


悠里はそう呟いて萌花へのメッセージを書き始めた。





篠崎先輩。こんばんは。

質問があるんですけど……佐々木先輩って要先輩に恋をしていたりしますか?

佐々木先輩が部活に復帰したら、私と要先輩が付き合っていることで罵倒されたりするでしょうか。

怖いし、心の準備をしなくちゃいけないので教えてください。





悠里は自分が書いたメッセージを読み直して小さく肯き、送信する。


「送っちゃったけど気が重い……。自分が嫌われてるだけでも気が重いのに、嫌われてる理由を聞くとかめちゃくちゃ気が重い……」


でも、美羽が要を好きだった場合、悠里だけが要を名前で呼び、悠里以外が名字呼びを強要される環境は地獄な気がする。

悠里だったらそんな環境、耐えられない。悲しすぎる。

せめて美羽がいる時だけでも要を名字で呼ぶということにすれば、大惨事が小さい惨事くらいに収まるかもしれない。

そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。

メッセージが来たのだ。


「篠崎先輩から返信が来た。先輩も寝れなかったのかなあ」


萌花からの返信を読むのが怖いと思いながら悠里は呟く。

鼓動が早まる。怖い。でもメッセージを読まなくちゃ。

悠里は一度ぎゅっと目をつぶった後に目を開けて萌花からのメッセージを確認した。





高橋ちゃん。高橋ちゃんには説明した方がいいと思うから言うね。

美羽先輩は一年前くらい前からずっと、藤ヶ谷くんのことが好きです。

だから、藤ヶ谷くんが高橋ちゃんにだけ優しいのが納得できなくて、苦しくて高橋ちゃんにだけつらい態度を取るのだと思います。

そういう美羽先輩の気持ちがわかるから、高橋ちゃんへの態度や言葉がキツくても、今まで先輩を止められなかったんだ。ごめんね。


高橋ちゃんと藤ヶ谷くんが付き合い始めて、たぶん美羽先輩は荒れると思う。

だから学校に行ったら、顧問の先生に相談してみようと思うんだけど、できれば高橋ちゃんと藤ヶ谷くんにも一緒に相談の場にいてほしいんだ。

予定がなければ月曜日の放課後、職員室の前に集合ね。


予定があったり来られなくなった場合は私一人で相談してみるけど、その時は私の主観での相談になっちゃうと思う。


夜遅くにごめんね。じゃあ、また学校で。

同じ内容のメッセージを藤ヶ谷くんにも送っておきます。





悠里は萌花からのメッセージを読み終えて、深いため息を吐いた。




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