第四百三十一話 5月17日/真夜中、眠れないからログインしての5月17日分の換金をして、サポートAIと雑談した後にバグ報告をする



要にメッセージを送信した悠里は部屋の電気を消し、ベッドに潜り込む。

……眠くない。眠れない。


「どうしよう。明日、要先輩が迎えに来てくれるのが嬉しすぎて寝れない……」


夜更かししたら目の下に隈ができてしまうかもしれない!!


「寝たい……。なんで寝たい時に寝れないの? 授業中はめちゃくちゃ眠くなるのに……っ」


悠里はベッドの中でごろごろと寝返りをうち、足をじたばたと動かす。

眠気は全くない。

それでも頑張って目をつぶり続け、羊の数を数えてみたり、深い呼吸をしてみたりしたが全く眠れない。

……疲れた。


「あー。もうやだ……。今何時……?」


悠里は枕の横に置いていたスマホを確認すると0:03だった。


「うわあ。日付変わってる。本当、やだ。なんで寝れないの……?」


悠里は眠れないので『アルカディアオンライン』をプレイすることにした。

日付が変わったから、ゲーム内通貨をリアルマネーに変換できる。

最悪、悠里が学校に行っている間に母親にゲーム機器を没収されてしまうかもしれないから、今のうちに変換しておこう。

……眠れないし。眠れないでごろごろしている時間は無駄すぎるし。


悠里は部屋の電気をつけて充電していたゲーム機器をベッドの上に置き、ゲーム機とヘッドギアをコードで繋いで、ゲーム機とヘッドギアの電源を入れ、ヘッドギアをつける。

そしてベッドに横になり、目を閉じた。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

無事にログインできたようだ。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」


「こんばんは。サポートAIさん。今日の分の換金をしたいです。1000円換金したいです」


「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に1000円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は3496501リズです」


「ありがとうございます。あの、質問いいですか?」


「どうぞ」


「えっと『アルカディアオンライン』の運営ってプレイヤーのフレンドメッセージの中身とかチェックしてたりします?」


「します。規約に記載してある通りです」


規約に記載されてるんだ……。

規約を全く読まずに『アルカディアオンライン』を遊び始めた悠里はため息を吐いた。


「えっと、なんでチェックするのかとか聞いてもいいですか? プライバシーの侵害とかそういうのはどうなるのかなあとか……」


「プライバシーの侵害を気になさる方は『アルカディアオンライン』をプレイしなければ良いというのが『アルカディアオンライン』運営の判断です。この場のやり取りを含めて『アルカディアオンライン』内におけるすべての映像と音声は保管・管理されます。また、転送の間と『ルーム』を除くゲーム内の画像や音声は加工や修正等をして使用される場合があります」


「そうなんだ……」


「フレンドメッセージの内容はメッセージの送信時にワタシが精査し、脅迫・パワハラ・セクハラ・いじめ加害・ストーカー行為等、規約違反行為の内容を確認した場合、送信を停止して送信者の意図を確認、プレイヤー善行値を下げたり、場合によってはアカウントを凍結する場合もあります」


「それはすごいね。じゃあ、ゲーム内で意地悪なメッセージを受け取るプレイヤーは誰もいないんだね。よかった」


「『アルカディアオンライン』にはゲームをプレイするプレイヤーを選ぶ権利があります。『アルカディアオンライン』をプレイするに値しないプレイヤーにサービスを提供することはありません」


「じゃあ、いじめをした人とか犯罪者とかにはゲームをプレイさせないの?」


「その点においては『アルカディアオンラインプロジェクト』内で意見が割れています。脳波チェックをして犯罪者やいじめ加害者・パワハラやDVを行っているプレイヤーへの警告とアカウント凍結を行うべきだという意見と『アルカディアオンライン』では何も悪いことをしていないのだから脳波チェックはやり過ぎだという意見があります」


「難しいね……」


悠里はため息を吐きながら言う。


「間を取ってフレンドメッセージの検閲を行っています。また、プレイヤーからの訴えがあった場合は該当の映像や音声のチェックを行い、相応の対応をします」


「証拠があれば罰するということなんですね……」


「また、住む家が無い方、DVや虐待、家庭内不和等で苦しんでいるプレイヤーを一時保護できるシステムの構築をしているところです。観光客が減って苦しんでいるホテルや旅館、民泊等と連携して対応できればと考えています」


「そうなんだ。虐待で亡くなる子のニュースとか見て、元気なうちに助けてあげられたらよかったのにって思うこともあったから、早く困った人や苦しんでいる人が救われるシステムができたらいいなって思うよ」


「高橋悠里様の言葉は『アルカディアオンラインプロジェクト』スタッフに伝えます」


「あっ。そうだ。私、バグ報告をしようと思ってたんですっ。今、報告してもいいですか?」


「お願いします」


「えっと『識別の虫眼鏡』でマリーを見た時に表示された文章を修正してほしいです。マリーの識別情報は『宿屋兼食堂の娘』にしてください」


「ゲーム制作スタッフに伝えます」


「まだあるんですっ。、ユリエル様の表記は『港町アヴィラ領主の子息』が正しくて、私……マリーの大事なテイムモンスターの真珠はただの『テイムモンスター』表記じゃなくて『真珠(可愛くてかっこいいテイムモンスター)』に修正希望ですっ」


「……伝えておきます」


サポートAIの返答に一瞬の間があったことに悠里は気づかなかった。



***


高橋悠里の5月17日の換金額 1000円


高橋悠里の貯金額 8600円 → 9600円


マリー・エドワーズの現在の所持金 3497501リズ →3496501リズ

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