第四百二十八話 マリー・エドワーズたちはラブリーチェリーを食べ終えて『識別の虫眼鏡』でお互いを見て、識別の文章についてバグ報告をしようと思う



マリーと真珠、ユリエルは仲良く楽しくラブリーチェリーを食べ終えた。

マリーはラブリーチェリーを乗せていたハンカチを畳んでアイテムボックスに収納する。

一番多くラブリーチェリーを食べた真珠は満足した。

ユリエルはマリーと真珠に微笑み、口を開く。


「ラブリーチェリー、おいしかったね」


「はいっ」


「わんっ」


ユリエルの言葉にマリーと真珠が肯く。

それからマリーが口を開いた。


「ユリエル様。真珠。私、虫眼鏡を貰ったんです。『識別の虫眼鏡』っていうんです。ステータス」


マリーはアイテムボックスからワールドクエスト『消えた孤児たちを追え!!』のWP交換で取得した『識別の虫眼鏡』を取り出す。

ユリエルと真珠はマリーの手の中にある識別の虫眼鏡を興味深く見つめた。


「その虫眼鏡で見れば物や人の名前がわかるの?」


ユリエルは識別の虫眼鏡を見つめながら問いかける。


「たぶんそうじゃないかと思います。今、使ってみますね」


マリーはそう言って、虫眼鏡で真珠を見た。


「真珠を見たら『真珠(テイムモンスター)』って出ました!!」


「わんっ」


真珠はマリーのテイムモンスターなので大きく肯く。


「俺はどう表示されるかな?」


「ユリエル様を見ますね」


マリーはそう言って虫眼鏡をユリエルにかざし、のぞき込む。


「ユリエル様は『ユリエル・クラーツ・アヴィラ(領主の子息)』って出ました!!」


「そうなんだ。ざっくりとしてるけど、名前がわかるようになるのはいいね」


「はいっ。これでうっかり名前を忘れてもこっそり確認できます」


マリーの言葉を聞いたユリエルは、虫眼鏡を翳している時点で怪しいし、その虫眼鏡の名前が『識別の虫眼鏡』だと知られたら名前を忘れてしまったんだなと思われることは必至だと思ったが、マリーが可愛いので黙っていた。


「わうーっ。わんわぅ、わんっ」


「真珠も虫眼鏡を見たいの?」


「わんっ」


マリーに問いかけられて真珠は肯く。


「じゃあ、真珠くんは俺と一緒にマリーちゃんを見ようか。マリーちゃん。虫眼鏡を貸してくれる?」


「はい。どうぞ」


マリーは虫眼鏡の柄をユリエルに向けて差し出す。


「ありがとう。マリーちゃん。借りるね」


ユリエルはマリーから識別の虫眼鏡を受け取って微笑み、それから真珠を手招きした。


「真珠くん。一緒に虫眼鏡でマリーちゃんを見てみよう」


「わんっ」


ユリエルはマリーに虫眼鏡を翳し、真珠と一緒にレンズを覗き込む。

識別の対象になったマリーはひとりぼっちになってしまったようで少し寂しい。

でも仲良く虫眼鏡を覗いているユリエルと真珠を間近で見られて嬉しい。可愛くてかっこいい。尊い。


「マリーちゃんは『マリー・エドワーズ(宿屋の娘)』って出たよ」


「本当にざっくりですね。説明」


『アルカディアオンライン』ゲーム制作スタッフは手抜きが過ぎると思う。

マリーの表記は『宿屋兼食堂の娘』であるべきだ!!


「私の表記って『宿屋兼食堂の娘』が正解だと思うんです。バグ報告した方がいいですよね?」


「そうだね。マリーちゃんがそうしたいならそうすればいいと思う」


ユリエルは正直どっちでもいいと思ったし、そこまで細かい修正を強要される『アルカディアオンライン』ゲーム制作スタッフを気の毒に思ったが、自分を『宿屋兼食堂の娘』と主張するマリーが可愛かったのでマリーがバグ報告をすることに賛成した。

マリーはユリエルに微笑んで口を開く。


「ユリエル様の表記も、ちゃんと『港町アヴィラ領主の子息』に修正してもらうように言いますねっ」


「……ありがとう」


ユリエルは複雑な気持ちを隠してマリーにお礼を言う。


「わんわぅわ?」


真珠は自分も何か修正してもらうのかと思いながら首を傾げた。


「真珠も修正してもらいたいの?」


「わんっ」


マリーの言葉に真珠が肯いたので、マリーは修正文を考え始めた。


「真珠は……『可愛くてかっこいいテイムモンスター』に修正してもらおうねっ」


「わんっ」


マリーの言葉に真珠は肯く。

ユリエルはマリーと真珠のやり取りを聞きながら『アルカディアオンライン』ゲーム制作スタッフのところには、すさまじい数のバグ報告や要望、クレームが届いているのかもしれないなあと思った。



***


紫月23日 夜(5時45分)=5月16日 21:45



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る