第四百二十三話 マリー・エドワーズと真珠、ユリエルは105号室のベッドに横たわりログアウトして、高橋悠里は晩ご飯におでんを食べ、お風呂に入る

マリーと真珠、ユリエルは『赤い珊瑚亭』の一階の廊下の奥の105号室の前に到着した。

ユリエルはカウンターで受け取った鍵で部屋の扉を開け、真珠を抱っこしたマリーに部屋の中に入るように促す。


ユリエルに促されて『赤い珊瑚亭』の105号室に足を踏み入れたマリーは、見たことがある室内……と思った。

『赤い珊瑚亭』は建物の外観だけでなく室内も『銀のうさぎ亭』とすごくよく似ている……。


離魂病にかかって寝込む前のマリーは母親と祖母を手伝って『銀のうさぎ亭』の客室の掃除をしていたので、客室の内装、ベッドや簡易な棚の配置等を覚えていたのだ。

『アルカディアオンライン』のグラフィック担当スタッフは建物だけでなく室内のグラフィックを使いまわさなければいけないくらいに多忙だったのだろうか。


真珠はマリーの腕の中から飛び下りて、室内に一つだけあるベッドに飛び乗って吠えた。

ユリエルはアイテムボックスから懐中時計を取り出して時間を確認する。


「マリーちゃん。時間がヤバそう。いったんロ……じゃなくてゲームを終わりにしよう」


「はいっ」


もはや恥ずかしがっている余裕は無さそうだ。

マリーとユリエルは真珠を挟んでベッドに寝転がり、同時に口を開く。


「ログアウト」


マリーの意識は暗転した。


悠里は自室のベッドの上で目を開けた。

無事にログアウトできたようだ。

ヘッドギアを外して起き上がる。


「強制ログアウトしなかった。よかった。今、何時だろう?」


悠里はスマホを手に取り、時間を確認する。


「うわっ。17:57だって。もう少し遅かったら強制ログアウトだったかも……」


悠里がそう言いながら、ヘッドギアとゲームの電源を切ったその時、部屋に父親が入ってきた。


「悠里。お祖母ちゃんがおでんを作ってくれたから食べよう」


「晩ご飯もお祖母ちゃんが作ってくれたの? お母さんは?」


「食欲がわかないって部屋で寝てる」


「そっか……」


生理で体調が悪いのに、好きな俳優の自殺……じゃなくて自死のニュースを知ってショックを受けたから食欲がなくなってしまったのだろう。


「たぶんもう少ししたらお腹が空いて起きてくると思うよ」


「そうかな?」


不安な顔で問いかける悠里に父親は微笑んで肯き、悠里の頭を優しく撫でた。


悠里は父親と一緒にダイニングに行き、晩ご飯のおでんを食べ終えてから自分の食器を洗ってトイレに行き、歯を磨いた。

生理のお腹の痛みは少し和らいでいるような気がする。


晩ご飯の間ずっと姿を見せない母親のことは心配だったが、もしかしたらこのまま悠里のゲーム機器を没収することを忘れていてくれるかもしれないという淡い希望を抱く。

ごめんね。お母さん。

でも、私は明日、要先輩と真珠と一緒にヘヴン島で遊びたい!!


祖母は晩ご飯をひとりでゆっくりと食べていて、父親と祖父はリビングでテレビを見ているので、悠里はお風呂に入ることにした。

お風呂に入って髪を乾かして、万全の状態でゲームをプレイしよう。



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