第四百二十二話 マリー・エドワーズと真珠、ユリエルは『赤い珊瑚亭』に入り、一部屋を三泊、ヘヴンズコイン3枚で借りる



ヘヴン島の街中に足を踏み入れたマリーは周囲を見回して口を開く。


「わあっ。いろんなお店があるみたい。お店の看板が電飾っぽいピカピカで飾られていて派手……」


「わんわんっ」


真珠は看板を彩る電飾のようなものが気になる。

キラキラ、ピカピカで綺麗だ。

ユリエルはアイテムボックスから懐中時計を取り出して今のゲーム内時間を確認して口を開いた。


「マリーちゃん。真珠くん。先に宿を見つけよう。そろそろリアルの晩ご飯の時間が近いと思うから」


「それは大変ですっ。街中で強制ロ……になっちゃったらダメです。絶対っ」


ユリエルの言葉を聞いたマリーは何度も首を縦に振る。

ここでうっかり悠里が強制ログアウトしてしまったら、眠り込んだマリーと真珠を抱えてユリエルが途方に暮れることになるし、ユリエルが眠ってしまった場合はマリーと真珠が途方に暮れることになってしまう。


マリーと真珠、ユリエルは宿屋の看板を探した。


「ユリエル様!! あそこに『赤い珊瑚亭』っていう看板がありますっ!!」


マリーは見つけた看板を指差そうとして、真珠を抱っこしていることに思い至る。

真珠を抱っこしているから指を差せない……っ。

マリーの言葉を聞いたユリエルは小さく肯いて口を開く。


「本当だ。宿屋っぽいね。行ってみよう」


「はいっ」


「わんっ」


マリーと真珠、ユリエルは『赤い珊瑚亭』という看板が掛かった建物を目指して歩き出した。


『赤い珊瑚亭』はマリーと真珠の家でもある『銀のうさぎ亭』に似た建物だった。

悠里は『アルカディアオンライン』のグラフィック担当スタッフの手抜きを感じた……。


「わうーっ。わんわんっ」


真珠は『赤い珊瑚亭』が『銀のうさぎ亭』に似ていて嬉しくて尻尾を振る。


「マリーちゃん。真珠くん。中に入ってみよう」


ユリエルに促され、真珠を抱っこしたマリーはユリエルと共に『赤い珊瑚亭』に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


カウンターにいたのは健康的な印象の美女だった。

カウンター前には今、マリーたちしかいない。

女性はマリーと真珠、ユリエルの顔を見て一瞬悲しげな顔をして、それから痛みに耐えるような表情に変わる。


「お姉さん。どこか痛いの? 大丈夫?」


「わうわうう?」


真珠を抱っこしてカウンターに駆け寄って言うマリーと、マリーと一緒に女性を心配する真珠を見て女性は泣きそうな顔で笑う。


「大丈夫よ。お嬢ちゃんと子犬ちゃん。心配してくれてありがとう。お父さんとお母さんは? 一緒じゃないの?」


「うん。私と真珠とユリエル様だけだよ」


「そう……。うちの宿に泊まるには、一泊・食事は無しでヘヴンズコイン1枚が必要なの。ヘヴンズコインはわかる? ヘヴン島に入った時に門番がくれた石のコインよ」


「わかるよっ」


マリーは女性に肯いて言う。

だが、マリーは真珠を抱っこしているのでステータス画面を操作できない!!


「マリーちゃん。俺がコインを払うよ。ステータス」


ユリエルはアイテムボックスからヘヴンズコイン10枚が入った皮袋を取り出す。

女性は突然虚空に出現した皮袋を見て驚いて目を見張るが、声は出さない。

ユリエルはアイテムボックスからヘヴンズコイン10枚が入った皮袋を取り出して、皮袋からヘヴンズコイン1枚を手にして女性に見せた。


「このコインを払えばいいんですよね?」


「ええ。そうよ」


「あの、一部屋でベッドが二つある部屋を三日間借りたいんですけど。コインを3枚払います」


ユリエルは皮袋からヘヴンズコインを3枚取り出しながら言う。

ユリエルの言葉を聞いた悠里はそういえば明日は月曜日で学校に行かなければいけないのだと思い至る。

悠里と要がゲームをプレイできるとしたら今夜の晩ご飯の後か、明日の放課後になるはずだ。

明日、学校から帰ってゲームをプレイする権利を獲得するために頑張って母親と交渉しようと悠里は心に決める。

せっかくヘヴン島に来たのだから、ユリエルや真珠と一緒に遊びたい……!!

ユリエルの言葉を聞いた女性は困惑顔で口を開いた。


「この宿にあるのは、ベッドが一つしかない部屋だけなのよ。君たちは子どもだから一緒に寝ても大丈夫だと思うんだけど……。一緒のベッドを使えば、借りるのは一部屋でいいわよね。二人と一匹で、一泊・コイン1枚で済むからお得よ。……痛っ」


「お姉さん、大丈夫?」


「わうわうう……?」


痛そうに顔を歪める女性に、マリーと真珠は心配になって声を掛ける。

ユリエルは女性が左手首に巻いている鎖のようなアクセサリーが気になった。

ヘヴンズコインを渡してくれた門番も、左手首に似たようなアクセサリーをしていた……。


女性はマリーと真珠に微笑み、口を開く。


「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。じゃあ、一部屋でいいわね?」


「えっ!?」


「わんっ!!」


女性の言葉にマリーは戸惑い、真珠は肯く。

ユリエルは戸惑っているマリーを見て口を開いた。


「やっぱり、マリーちゃんと俺が一緒のベッドに寝るのはダメだよね。二部屋で……」


「はいっ!! 私と真珠はユリエル様と一緒に寝ます!! 私はベッドの上で微動だにしないと誓います!! 寝相が悪くなったりしません!!」


「わんわんっ!!」


「一緒のベッドで寝てもいいの?」


困惑しながらマリーに問いかけるユリエルに、マリーは力強く肯いて口を開いた。


「大丈夫ですっ。真珠を真ん中にして寝れば、ユリエル様の安全は完ぺきに確保されますっ」


真珠は大好きなマリーとユリエルに挟まれて眠ることができると知って、ご機嫌で尻尾を振る。


「……1部屋、三泊でお願いします」


ユリエルはそう言いながらヘヴンズコイン3枚をカウンターに置き、女性から部屋の鍵を受け取った。


「あなたたちの部屋は一階の廊下の奥、105号室よ。今は部屋の鍵が締まってるけど、掃除は行き届いているから。その鍵を使えば扉を開けられるわ」


「わかりました」


「トイレは廊下の突きあたりにあるわ。他に何かわからないことがあったらなんでも聞いてね」


女性が笑顔でそう言った直後、新たな客が入ってきた。

女性は新たな客を笑顔で迎え、マリーと真珠、ユリエルは一階の廊下の奥の105号室へと向かった。


***


マリー・エドワーズの現在のヘヴンズコインの枚数 10枚


ユリエルの現在のヘヴンズコインの枚数 10枚→7枚


紫月23日 早朝(1時52分)=5月16日 17:52



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