第四百二十一話 マリー・エドワーズは『ヘヴンズコイン』10枚を受け取り、真珠、ユリエルと共にヘヴン島の門をくぐる



船を下りたマリーは真珠を抱っこして、ユリエルの傘に入れてもらった。

真珠は傘の下に入れてわくわくする。

ユリエルの傘に一緒に入れてもらえるのなら、雨の日も楽しいとマリーは思った。


ユリエルと真珠を抱っこしたマリーは、ヘヴン島に入島するための列に並ぶ。

今回、ユリエルに付き従う護衛騎士は誰もいない。

ユリエルが『死に戻り』によりヘヴン島から港町アヴィラの教会に戻ると宣言し、聖人でない者は護衛してはならないと命じたからだ。


さらに、領主の船はユリエルを置いて出航し、領主の船ではない船に乗るためには金貨10枚を要求されると知った護衛騎士たちはユリエルの護衛を断念せざるを得なかった。

少しずつ前に進む列に並んでいると、まるで遊園地のジェットコースターを待っているようでわくわくすると思いながら、マリーは口を開いた。


「そういえば、孤児たちを攫った人たちを捕まえることはできたんですか?」


マリーの問いかけに、ユリエルは難しい顔をして首を横に振り、口を開く。


「孤児たちを攫った犯人たちはヘヴン島の警備隊に連行されてしまったらしい。正しく罰を与えられていればいいけれど、放免……罰せられずに解放されている可能性もある」


「そんな……」


「くぅん……」


ユリエルの言葉を聞いたマリーと真珠は孤児たちを攫って怖い目に遭わせた犯人が逃げてしまっているかもしれないと知って項垂れる。

悪いことをするNPCが罰されないのはとても悔しいし、理不尽だ。

ユリエルは孤児たちに心を寄せるマリーと真珠の優しさを好ましく思いながら口を開く。


「今後は警備隊や戦うことができる神官たちに孤児院の周囲を警戒させるようにするとお父様が仰っていたよ。だからもう、孤児たちが攫われることは無いと思う」


ユリエルの言葉を聞いたマリーと真珠は安心した。

これで、心置きなく楽しくヘヴン島で遊べる。


マリーとユリエルが他愛ないお喋りをして、真珠がそれを楽しく聞いて肯いていると、列が前に進み、マリーたちが入島する番になった。

入島手続きをする門番がマリーたちの持ち物を検閲した後、微笑んで口を開く。


「大変お待たせ致しました。これで検閲は終了です」


そう言って、門番は石で出来た直径2センチほどのコインをマリーたちに見せる。


「こちらは『ヘヴンズコイン』です。ヘヴン島では食事処や娯楽施設等、すべてにおいて『ヘヴンズコイン』が必要になります。ヘヴンズコイン10枚はヘヴン島に入島するお客様へのサービスとして無料で提供致しますが、追加のコインが必要になった場合はカジノの換金カウンターで通貨をヘヴンズコインに変換してください」


門番の言葉を聞いたマリーと真珠は目を輝かせた。


「わあ……っ。コインを無料でくれるんですかっ!? ありがとうございます!! 真珠。真珠と私で5枚ずつ、半分こしようねっ」


「わんっ!!」


門番はヘヴンズコイン10枚を皮袋に入れてマリーに差し出す。

マリーは真珠を両手で抱っこしているので受け取れない……。


ユリエルは右手で傘を持っているので、真珠を片手で抱っこすることになり、左手だけで真珠を抱っこできるか不安に思って待っていると、真珠がマリーの腕の中から飛び下りた。


「わうーっ。わんっ」


「真珠。ありがとう……っ」


真珠の機転により両手が空いたマリーは、門番からヘヴンズコイン10枚が入った皮袋を受け取り、アイテムボックスに収納した。

門番は、マリーが聖人だと知って目を見張る。だが、騒ぎ立てることはなかった。


「真珠。抱っこするね」


「わんっ」


再び両手が空いたマリーは真珠を抱っこする。

ユリエルも門番からヘヴンズコイン10枚が入った皮袋を受け取り、そしてマリーは真珠、ユリエルと共にヘヴン島の門をくぐった。



***


紫月23日 早朝(1時45分)=5月16日 17:45



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る