第三百七十二話 マリー・エドワーズが『ラブリーチェリー』の鑑定を依頼している途中で探偵ロールをしているプレイヤーが姿を現す



「探偵ロールをしている私のフレンドからの返信でした。もうすぐこの『ルーム』に来るようです」


「『探偵』さんが来るんですね!! やった!!」


「わんわんっ!!」


情報屋の言葉を聞いたマリーと真珠が喜ぶ。

情報屋はマリーと真珠に微笑み、それからマリーがテーブルに置いた黒皮の手帳を自分の手元に引き寄せた。


探偵ロールをしているプレイヤーはどんな人だろうとわくわくしていたマリーは『ラブリーチェリー』を情報屋に鑑定してもらいたいと考えていたことを思い出して口を開く。


「あっ。そうだ。私、情報屋さんに鑑定してほしいものがあるんですっ。ステータス」


マリーはステータス画面を出現させて、アイテムボックスから『ラブリーチェリー』が入った木箱を取り出す。

その木箱から『ラブリーチェリー』を一房だけ取り出し、それから木箱を腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納した。

真珠は『ラブリーチェリー』を食べられるかもしれないと思って尻尾を振る。

ユリエルは、マリーが手にしているさくらんぼを興味深く見つめた。

さくらんぼの実は卓球で使うピンポン玉くらいの大きさでハートの形をしている。


「マリーさん。そのさくらんぼのような果物の情報を売って頂けるのですね?」


「はいっ。これは『ラブリーチェリー』と言いますっ。情報屋さんに鑑定してもらって、鑑定の代金を情報の対価から引いてもらいたいですっ」


マリーの言葉を聞いたユリエルは『ラブリーチェリー』というダサい名前に引いた。

『アルカディアオンライン』のゲーム制作スタッフのネーミングセンスのなさがダメなのか、それともダサい名前をそのまま通す責任者のセンスが問題なのか。


情報屋がマリーが差し出した『ラブリーチェリー』を受け取ったその時『ルーム』の扉が開いた。


「よう。情報屋。来たぜ」


マリーと真珠、ユリエルは声の主に視線を向けた。

『ルーム』に入ってきたのは小太りの小男だった。左腕に腕輪をしている。プレイヤーだ。

彼は高そうな背広に蝶ネクタイをつけ、折り目のついたスラックスとピカピカの黒皮の靴を履き、鼻の下にカールした髭を蓄えている。

美形キャラが多い『アルカディアオンライン』の主人公選択で、なんで小太りのおじさんキャラを主人公に選んじゃったの……っ!?


「エルキュール・ポアロ……?」


マリーが小太りのおじさんキャラに衝撃を受け、真珠が目を剥いているマリーの顔に衝撃を受けていると、ユリエルが首を傾げて呟いた。

小太りプレイヤーはユリエルの言葉を聞いて破顔する。


「おっ。坊ちゃんはガキだけどクリスティを知ってんだな。さては中身は成人してるな?」


「リアルの情報はお伝えできません」


小太りのプレイヤーの言葉にユリエルが苦笑して言う。

クリスティ。……ミルクティーとかアイスティーの仲間とかではないよね?

マリーと真珠は『クリスティ』の意味がわからず首を傾げる。

情報屋のフレンドは情報屋の隣に腰を下ろし、隣にいる情報屋に視線を向けて口を開いた。


「情報屋。オレにもコーヒー。ホットでいいぜ」


「ホットコーヒーは1杯金貨1枚です」


微笑んで言う情報屋の言葉を聞いたマリーと真珠は目を剥いた。

コーヒー1杯、金貨1枚!! ぼったくりの極み……!!


「じゃあ、彼の分と俺とマリーちゃん、真珠くんの分で金貨4枚を払います。ステータス」


ユリエルはアイテムボックスから金貨4枚を取り出して情報屋に差し出した。

情報屋はマリーから受け取った『ラブリーチェリー』をテーブルの上に置き、ユリエルから金貨を受け取る。


「ユリエル様っ!! いいんですか……っ!?」


「わうわう!! わうわ……っ!?」


マリーと真珠に問いかけられたユリエルは微笑んで肯いた。


「ワールドクエスト『ウッキーモンキークイーンへの求婚騒動』でたくさんお金を稼げたんだ。だからご馳走させて」


「坊ちゃん。助かるぜ。ありがとうな」


小太りのおじさんプレイヤーが美少年かつ初対面のユリエルに金貨1枚のコーヒーを気軽に奢られている様を、マリーと真珠は呆然と見つめる。

情報屋はユリエルから受け取った金貨をアイテムボックスにしまった後に自分のコーヒーを飲み切って、客人と自分の分のコーヒーを淹れる用意を始めた。


***


紫月21日 夜(5時34分)=5月16日 9:34



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