第三百六十九話 マリー・エドワーズたちは情報屋の『ルーム』に漂うコーヒーの香りを嗅ぎ、マリーはうっかり情報を漏洩する



マリーとユリエル、真珠はフローラ・カフェ港町アヴィラ支店のカウンター前から情報屋の『ルーム』に続く階段に乗った。

一番最後に階段に乗った真珠が勇ましく吠える。


「わおお、わんっ!!」


マリーとユリエル、真珠が乗った階段が下に向かって動き出す。

ユリエルは真珠に視線を向けて微笑み、口を開いた。


「真珠くんは今『下りON』って言ったんだね。階段を動かせてすごいね」


「わおんっ!!」


ユリエルが『下りON』と言って階段を動かした真珠を褒めると真珠は誇らしげに胸を張り、尻尾を振る。

マリーは可愛くてかっこよくて賢い、自慢のテイムモンスターの真珠が、大好きなユリエルに褒められて嬉しくて笑顔になった。


動く階段が階下に下りきり、ユリエルとマリー、真珠は動く階段を下りた。

マリーは、正面の壁にある扉を開け、中に入る。

ユリエルと真珠はマリーの後に続いた。


情報屋のクラシックな書斎風『ルーム』にはコーヒーの良い香りが漂っている。

真珠は初めて嗅ぐ匂いに首を傾げた。

ブラックコーヒーが好きなユリエルは顔を綻ばせる。

マリーは白いコーヒーカップを片手にコーヒーを飲んでいる情報屋を見つめて口を開いた。


「おはようございますっ。情報屋さん」


情報屋は白いコーヒーカップをソーサーに置いてマリーに視線を向け、微笑む。


「おはようございます。マリーさん。真珠さん。ユリエルさん」


「コーヒーの良い香りがします。どこで手に入れたんですか?」


ユリエルが情報屋に問いかけると、マリーと真珠は緊張に包まれた。

ユリエルが情報屋にお金を請求されてしまう……っ。

だがユリエルはお金持ち。石貨1枚を貰って大喜びするマリーとは違う。

情報料を払う余裕も余力もあるのかもしれない。


情報屋はテーブルにある錬金魔道具のコンロと薬缶、銀色のコーヒーケトル、ガラス製のコーヒーサーバーとドリッパーに視線を向けて口を開いた。


「こちらは錬金術師ギルドで購入したものです。コーヒー豆だけは旧ウォーレン商会で購入して、コーヒーミルで挽いています。旧ウォーレン商会の新名称はレーン商会になりそうですか?」


「えっ!? ユリエル様のお父さんがウォーレン商会の権利書とかを買ったのに、なんでレーン商会になるの!? ……あっ」


マリーは自分がうっかり情報を無料で漏洩してしまったことに気づいて両手で自分の口を塞いだ。

……でも、零してしまった言葉は元に戻らない。

マリーは項垂れて口を開いた。


「ユリエル様。私、情報漏洩しました。ごめんなさい……」


「わうー。くぅん……」


真珠はしょんぼりと項垂れるマリーを心配そうに見つめる。

ユリエルは項垂れるマリーの頭を優しく撫で、そしてマリーを心配そうに見つめる真珠の頭を撫でた。

情報屋は落ち込むマリーを見て苦笑し、口を開く。


「マリーさんとユリエルさんに情報の対価として銀貨1枚をお支払いしますね。さあ。どうぞソファーに掛けてください」


情報屋のデヴィットに長方形のテーブルを囲むように配置された皮張りのソファーをすすめられ、三人掛けのソファーにユリエルが腰を下ろした。

マリーは真珠をユリエルの隣に座らせ、自分は真珠の隣に座る。

真珠は大好きなマリーとユリエルに挟まれて、嬉しくて尻尾を振った。


マリーは情報屋がユリエルに彼が好きなブラックコーヒーを淹れてくれたらいいのになあと思ったが、情報屋は自分だけコーヒーを飲み続けるようだ。


情報屋はソファーに座ったマリーとユリエルにそれぞれ、銀貨1枚を差し出した。さっきマリーが漏洩した情報の対価だ。

マリーは銀貨1枚をありがたく受け取り、アイテムボックスに収納した。ユリエルも銀貨1枚をアイテムボックスに収納する。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 銀貨1枚


紫月21日 夜(5時08分)=5月16日 9:08



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る