第三百五十七話 マリー・エドワーズは木箱に入った『ラブリーチェリー』を金貨30枚で買い取る
マリーたちが教会に戻ると、教会にいた村人たちと神官たちから歓声があがった。
どうやら、すべての村人と神官が一同に、教会に集結できたようだ。よかった。
NPCはHPが0になって一定時間が過ぎると死亡してしまう。
だから、ワールドクエスト『ウッキーモンキークイーンへの求婚騒動』をマリーの知るNPCの死者を0で終了できて本当に嬉しい。
マリーが真珠と一緒に父親や家族と嬉しそうに話すノーマを見守っていると、教会長と話していたアーシャとマギーが歩み寄ってきた。
「マリーちゃん。教会長が教会の食堂で、村人たちと祝勝会をするんだって。私たちも参加してほしいって言われたわ」
「楽しそうだし、ウチらも参加しようよ。あ、でも時間とか大丈夫?」
「明日は日曜日なので大丈夫ですっ。私と真珠も参加します。ね? 真珠」
「わんっ!!」
真珠は楽しそうな集まりのような気がしたので、参加すると肯いた。
マリーが参加するなら真珠も参加する。
真珠とマリーはいつも一緒だ。
教会の食堂は有事の際の避難所になることも考えて作られていて、村人全員と神官全員が入っても少し余裕があるスペースがあった。
キッチンも併設されていて、神官たちはここでいつも食事をしているようだ。
神官による読み書きや簡単な計算を教える授業も、この食堂を使って行われているとノーマが教えてくれた。
食堂のテーブルにはマギーが持ち込んだ料理が並べられ、マリーはクッキーの箱を並べた。
すかすかのクッキーの箱に死蔵していた黒パンを詰める。
……まずい黒パンでも無料でNPCの空腹を満たせるのであれば少しは役に立つだろう。たぶん。
「聖人様。マリー様。『ラブリーチェリー』を洗い終え、箱詰め致しました。どうぞお納めください」
グリック村の村長であるノーマの父親が村人を代表してそう言うと、村人が木箱をテーブルの上に置いた。
蓋を開けると木箱いっぱいに『ラブリーチェリー』が入っている……ようだ。
マリーと真珠には見えない……。
村人はテーブルの上の木箱を悲しい顔で見つめているマリーと真珠に気づいて、慌てて木箱をテーブルから床の上に下ろした。
マリーは真珠を抱っこして木箱を見下ろす。
「わあ……っ。『ラブリーチェリー』が箱にいっぱい入ってる……!!」
「わうっわう……!!」
「すげえな!!」
「しゅごいねえ」
ノーマの弟ふたりが箱に駆け寄り、のぞき込んで言った。
マリーは村長を見上げて口を開く。
「あのっ。『ラブリーチェリー』はいくつ入ってますか? おいくらでしょうかっ?」
「すでに金貨1枚ちょうだいしていますので、追加のお代は結構です。聖人様たちのおかげで猿の群れは村からいなくなりましたし、村人は誰も怪我をせずに済みました」
村長がマリーに言う。マリーは首を横に振り、口を開いた。
「そんなのダメですっ。私、ちゃんとお金を払いますっ。労働には対価が必要だと思うんですっ」
マリーはそう言いながら、抱っこしていた真珠をそっと床に下ろして言葉を続ける。
「ステータス!!」
マリーはステータス画面を操作して金貨を30枚取り出した。
そしてマリーは小さな両手で宙に浮く金貨を受け止め、村長に差し出す。
「すげえ!! キラキラだ!!」
「しゅごい!!」
ノーマの弟ふたりがマリーの両手の金貨を見てはしゃぐ。
「村長さんっ。受け取ってください!!」
「父ちゃん!! くれるって言うんだからもらおうぜ!!」
「もりゃおうじぇ!!」
「だが、恩人の聖人様にお金を貰うわけには……」
「猿が村を荒らしたし、盗られてしまった『ラブリーチェリー』もありますよね? だからどうぞっ。友達のノーマさんの村を元に戻すために使ってもらえたら私はすごく嬉しいです」
「マリー様。ありがとうございます……」
村長はマリーの小さな両手から金貨を受け取り、深々と頭を下げた。
マリーは村長に微笑んで肯き、木箱を左腕に触れさせてアイテムボックスに収納する。
突如として消えた木箱に村人たちは驚いたが『聖人』が起こした奇跡だと呑み込み、ノーマの弟ふたりを除いて大騒ぎをすることはなかった。
***
※ マリー・エドワーズは木箱に入った『ラブリーチェリー』木箱ひと箱分を金貨30枚で買い取った。
マリー・エドワーズの現在の所持金 6579601リズ → 3579601リズ
紫月20日 早朝(1時54分)=5月15日 23:54
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