第三百五十一話 マリー・エドワーズたちはグリック村にたどり着く



グリック平原に足を踏み入れたマリーたち一行は、先頭と最後尾を入れ替えて進んでいた。

先頭は魔法使いのマギーで最後尾は弓使いのアーシャだ。


マギーはグリック村への行き方を知っているので先頭を歩くことになったのだが、茶色い川が流れるように、移動している猿の群れについていけばグリック村にたどり着けそうな気がするとマリーは思う。


東門付近は明かりがあって明るいが、真夜中で雨が降っているグリック平原は暗い。

マリーが『ライト』を使おうか迷っていると、マギーが道の両端にある道路照明灯に触れて魔力を注いだ。道路照明灯に明かりがつく。

マリーと真珠は明るくなって嬉しくて歓声をあげた。


「この『道路照明灯』は教会が聖人のために作ったんだって。グリック村の汎用依頼を受けた時に商人ギルドで教えて貰ったの。『魔力操作』が使えるなら、いつでも安全に行き来できるって」


マギーはマリーたちに説明して微笑み、道路照明灯に明かりをつけながら歩く。

マリーたちの背後からたくさんの猿たちが走ってきて、追い抜いていく。


「範囲魔法を使って猿の群れに一撃入れて、猿の数を減らした方がいいと思う?」


先頭を歩くマギーが自分たちを追い越していく猿たちを見ながら言うと、少し考えてからアーシャは口を開いた。


「グリック村に着くまでは猿と戦うのはやめておこう。ウチらの目的はマリーちゃんの友達が無事でいるのを確認して、グリック村の人たちにクエスト達成条件④を満たせば猿の攻撃は止むかもって伝えることだし」


アーシャの言葉を聞いたマギーは肯き、口を開く。


「わかった。攻撃をするのは止めておく。猿との戦いに時間を取られてグリック村に着くのが遅くなったら本末転倒だものね」


マギーの言葉を聞いて、マリーは肯く。

真珠は『ほんまつてんとう』の意味がわからなかったので首を傾げた。

マリーはクエスト達成条件④の内容を思い浮かべながら口を開く。


「村の人に受け入れられそうなのは、グリック村のすべての『ラブリーチェリー』を収穫してもらって、私たちで買い取るとかですかね?」


マリーは、いざとなったらすべての『ラブリーチェリー』を自分が買い取ってもいいと思っている。

お金は使うためにある!! それにプレイヤーのアイテムボックスは容量無制限、時間経過無しの仕様なので買い取った『ラブリーチェリー』が大量でも腐らせてしまうことはない。

わざわざ栽培しているくらいだからきっと『ラブリーチェリー』はおいしいはずだとマリーは思う。

マリーの言葉に肯いてアーシャが口を開いた。


「そうだね。猿が持ってたさくらんぼが『ラブリーチェリー』だと思うんだけど、見た目、すごくおいしそうだったから買い取って食べてみたい」


「わんっ」


真珠はアーシャの言葉に肯いた。

真珠も猿が持っていた『らぶりーちぇりー』を食べてみたい!!


マリーたちは周囲を警戒しながらお喋りをして、猿の群れと共にグリック村を目指して歩く。

真珠はぬかるんだ草原を歩くのが面白く、でも白い足が泥で茶色く汚れてしまうのが気になった。

マリーは『疾風のブーツ』のおかげで足や身体が軽く、ぬかるんだ草原を歩くのが楽しい。

汚れたブーツは、あとでマギーにお願いをして『クリーン』をかけてもらおう。もちろん、マギーにお礼をするつもりだ。


グリック村が見えてきた。

グリック村の入り口にも村の中にも、まばらに街灯が立っていて視野が確保できる程度には明るい。

村人数名が猿の群れを村の中に入れないようにと奮闘している。

だが猿の群れの数は多く、村人たちが猿を数匹倒している間に多数の猿が村の中になだれ込んでしまっていた。

マリーはノーマが心配でパーティーの列から抜け出し、走り出す。

マギーの『ウィンドウォール・キューブ』の範囲から外れたマリーは雨に打たれてずぶ濡れになった。

真珠もマリーの後に続く。

アーシャは『ウィンドウォール・キューブ』の中で弓を構えて矢をつがえ、マギーに視線を向けて口を開いた。


「マギー。このウィンドウォールの中から攻撃ってできるんだよね?」


「できるわ。ウィンドウォールの強度より強い攻撃なら風の壁を突き抜けるの。特に矢のように一点を突く攻撃にはウィンドウォールは弱いのよ」


マギーはそう言いながらロッドを構える。

マリーと真珠が襲われそうになったら容赦なく猿の群れに魔法を叩きこむつもりだ。


「すみませんっ!! 私は村長さんの娘のノーマさんの友達です!! ノーマさんは無事ですか!?」


雨に濡れながらグリック村の入り口にたどり着いたマリーは猿の群れと戦っている村人たちに問いかける。

突然現れた幼女に動転した村人のひとりが口を開いた。


「お嬢ちゃん!! ここは危ない!! 早く村の中に入れ……っ!!」


「わかりましたっ」


「わうーっ!! わんわんっ!!」


真珠がマリーに追いついた。


「マリーちゃん!! ウチらは村の外で猿の群れと戦う!! マリーちゃんと真珠くんは友達に会いに行って!!」


猿の群れに矢を放ちながらアーシャが叫ぶ。

アーシャの言葉を聞いたマリーは肯いて口を開いた。


「わかりました!! 真珠。行こう……っ」


「わんっ」


マリーはバトルにおいては役に立たない。

まずはノーマの無事を確認して、村のすべての『ラブリーチェリー』を収穫するようにお願いしよう。

マリーと真珠はグリック村の中に駆け込んでノーマの名前を叫び、彼女の姿を探した。


***


紫月19日 真夜中(6時34分)=5月15日 22:34



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