第三百五十話 マリー・エドワーズと真珠は『ウィンドウォール・キューブ』に感動して歓声をあげ、SPを使わない『クリーン』の習得方法を知り、東門を出る



東門が見えてきてマリーがほっと息を吐いたその時、雨が降ってきた。

マリーが空を見上げると、紫色の月は雲に隠れてしまっている。

時間が経過して、ゲーム内の時間帯が『夜』から『真夜中』になったのだ。


「私とパーティーメンバーを雨から守って!! 魔力操作ON!! ウィンドウォール・キューブON!!」


一列で歩いているパーティーメンバーの最後尾にいるマギーが魔法を発動すると、マリーたちを風の壁が覆う。

マリーと真珠は、雨が風の壁に遮られてびっくりした。


「マギーさん、すごい……っ!!」


「わうう……っ!!」


マリーと真珠は初めて見る『ウィンドウォール・キューブ』に感動して歓声をあげる。


「雨に濡れずに済んで助かる。ありがとう。マギー」


先頭を歩いているアーシャは前を向いたまま、マギーにお礼を言った。


「どういたしまして。『ウィンドウォール・キューブ』は私が創造した魔法なのよ。褒めてもらえて嬉しい」


マギーは笑顔になって言い、雨に濡れた自分とパーティーメンバーに『クリーン』をかける。

マリーと真珠は濡れた髪や身体、服が乾いて大喜びした。

アーシャは雨に濡れた弓と矢、矢筒が乾いたことが嬉しい。

マリーは綺麗になって喜ぶ真珠を見つめて微笑み、口を開く。


「やっぱり『クリーン』を覚えたいなあ。でも習得するにはSP1000が必要なんだよねえ……」


マリーの今のSPでは全然足りない。


「SPがなくても『クリーン』を覚えることはできるわよ。お金と時間は掛かるけど」


マリーの呟きを聞いたマギーが言う。

マギーの言葉を聞いたマリーは目を丸くして口を開いた。


「えっ!? そうなの!? 私、今、お金ならありますっ!! どうすればSPがなくても『クリーン』を覚えることができますかっ!?」


「魔術師ギルドのギルド員になって、ギルドポイントを貯めてランクを上げるの。『クリーン』の魔方陣の模写をするためには魔術師ギルドのランクBギルド員になる必要があるわ。それに、自分が書いた魔方陣を使って魔法を習得するためには金貨5枚が必要なの」


マリーとマギーが会話をしているうちに、一行は東門に到着した。

東門には兵士の一隊がいて、東門を出た猿を背後から攻撃している。

反撃をしてくる猿は群れのごく一部だ。


東門を出る猿とは逆に、東門に入ろうとしている猿もいて、猿の手には赤いさくらんぼがある。

赤いさくらんぼを持っている猿は、同族の猿たちから攻撃を受けていた。

同士討ちをしているようだ。


弓で猿を射ている兵士を、大楯を持った兵士が守って猿と戦っている。

兵士たちはみんな、雨に濡れていた。

マリーは改めて『ウィンドウォール・キューブ』のありがたさを噛みしめる。

アーシャが東門の入り口にいる衛生兵らしき若い兵士に声をかけた。


「兵士さん。ウチら、街の外に出たいんだけど」


「見ての通り、今は非常事態だ。街から出たがる人は検閲しないで出すようにと上司から指示されている」


「そうなんだ。わかった」


アーシャはそう言って、兵士の左腕に視線を向けた。彼の左腕に腕輪は無い。NPCのようだ。


「お兄さん。怪我しないように気をつけて。ウチらは全員聖人と聖獣だから心配しないでね」


アーシャの言葉にマリーと真珠、マギーは肯く。

プレイヤーはHPが0になっても教会に死に戻るし、痛覚設定が0パーセントなので怪我をしても痛みを感じない。

でもNPCはプレイヤーとは違って痛みを感じるし、HPが0になって一定時間が経過すれば死んでしまう。

アーシャに言葉を掛けられた兵士は、頬を緩めて口を開いた。


「雨に濡れずに済む風の魔法なんて初めて見たよ。君たちは……きっと強いんだろうな」


兵士は幼女のマリーと子犬の真珠を見て若干言い淀みながら、言う。

マリーと真珠は力強く肯いた。

マリーと真珠は種族レベルが3になったのだ。レベル1の時より、3倍強くなった!!


マリーたちは兵士たちの隙間を縫って東門を出た。

これから、マリーと真珠は初めてグリック平原に足を踏み入れる……。


***


紫月19日 真夜中(6時08分)=5月15日 22:08



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