第三百四十八話 マリー・エドワーズと真珠は母親を説得してパーティーメンバーと『銀のうさぎ亭』を出る



マリーたちは猿の群れが行き交う港町アヴィラを、バトルを避けながら『銀のうさぎ亭』に急いだ。

西の森からやってきた猿たちはこちらから攻撃を仕掛けなければプレイヤーやNPCを襲うことなく、東門を目指すようだ。

街の中ではプレイヤーやNPCが猿と小競り合いをしていたが、今のところ、大規模なレイド戦にはなっていない。

鐘の音は鳴り続けている。


マリーたちは全員無事に『銀のうさぎ亭』に到着した。

マリーと真珠が扉を開けて中に入ると、カウンターにいた母親が涙目になりながらマリーと真珠に駆け寄る。


「マリー!! シンジュ!! 無事だったのね……っ!!」


母親はそう言って身を屈め、マリーと真珠を抱きしめた。


「領主館にいるから、どこよりも安全だと思っていたけど心配したのよ。マリーとシンジュはまだ小さいんだから、あんまり遠くに行ってはダメ。お母さんを心配させないで」


「ごめんなさい。お母さん」


「わわんわわう」


涙声で言う母親に、マリーと真珠は謝った。

マリーの母親に抱きしめられているマリーと真珠を、パーティーメンバーのアーシャとマギーは微笑ましく見守る。

母親に抱きしめられながらマリーは口を開いた。


「お父さんとお祖父ちゃん、お祖母ちゃんもここにいる? 怪我とかしてない?」


「ええ。マリーとシンジュ以外は全員ここにいるわ。さっき領主館から『知らせの鳥』が来てね、猿の群れの駆除が終わるまでは外に出ないようにと通達があったの」


港町アヴィラの領主が猿の駆除に動いているのであれば、きっとマリーの家族の安全は守られる。

マリーはほっとしながら口を開いた。


「あのね。お母さん。私と真珠、これから出かけるの」


「何を言ってるの!? マリー!! 外は危ないのよ!!」


母親はマリーと真珠を抱きしめていた腕を解き、強い口調で言った。

マリーは母親を見つめて口を開く。


「友達のノーマさんがね、猿に襲われて怪我をしてるかもしれないの。私ね、真珠やパーティーメンバーとノーマさんを助けに行きたいの」


「5歳のマリーと子犬のシンジュに何ができるっていうの……!?」


「お母さん。マリーちゃんと真珠くんは私たちが必ず守ります」


話し合いがこじれそうだと見て取ったマギーがマリーと母親の会話に割って入る。

母親は、アーシャとマギーの存在に初めて気づいたようで、戸惑い、瞬く。


「はじめまして。私はマリーちゃんと真珠くんのパーティーメンバーのマギー・ジレンホールです。種族レベルは85です」


「種族レベルが85!? もしかして、あなたもマリーと同じ『聖人』なんですか……?」


母親の言葉にマギーは肯き、自分の左手の中指にある『聖人の証』を見せた。


「マリーの左手の中指にある痣と同じ……」


母親がマギーの左手の中指にある『聖人の証』を見つめて呟く。

アーシャも母親に歩み寄り、口を開いた。


「マリーちゃんのお母さんっ。ウチも『聖人』です。マリーちゃんと真珠くんはウチらが絶対に守りますっ」


「みなさん……。うちのマリーとシンジュのためにそこまで言っていただいて、本当にありがとうございます。でもマリーはまだ5歳でシンジュはまだ子犬です。猿の群れが横行するところに出すわけにはいきません」


母親は涙声で言って、アーシャとマギーに頭を下げた。

マリーは母親を説得しようと口を開く。


「お母さんっ。お母さんはこの前、モンスターの襲撃を受けた時に『銀のうさぎ亭』のお客さんたちをちゃんと守ったでしょ? 私も同じことをしたいの。ノーマさんのお父さんはグリック村の村長さんで『銀のうさぎ亭』の常連さんなんでしょ? 私と真珠は『銀のうさぎ亭』の子だから、お客さんを守るよっ」


「わんわんっ」


マリーの言葉に真珠も肯く。

真珠はユリエルと一緒にモンスター討伐をして、強くなった。

真珠がマリーと『おきゃくさん』を守ってみせる!!

母親は唇を噛みしめた。


「お母さんが止めるなら、私と真珠はアーシャさんやマギーさんと一緒に教会に死に戻る。でも、できればお母さんに私と真珠を見送ってほしい」


マリーが決然と言うと、母親の右目から涙が一筋、頬を伝って落ちた。

やがて母親はため息を吐き、口を開く。


「行ってらっしゃい。マリー。シンジュ。怪我をしないで、無事に帰ってくるのよ」


涙声で言う母親に、マリーと真珠は力強く肯いて口を開いた。


「いってきます!!」


「わんわんっ!!」


マリーと真珠はアーシャとマギーに肯き、そしてマリーたちは『銀のうさぎ亭』を後にした。


***


紫月19日 夜(5時54分)=5月15日 21:54




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