第三百四十二話 マリー・エドワーズはアーシャと『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』のWPで交換した物の話をして『ネトラレ』というワードを知る



アーシャと並んで座ったマリーはリアルの癖で、喋らず黙々と料理を食べていたが、ここはゲーム内であってリアルではないと思い至る。

マリーは隣に座るアーシャに視線を向けて口を開いた。


「アーシャさん。食べながらお喋りしてもいいですか?」


「もちろんいいよっ。ウチ、リアルで黙って食べる癖がついてるからゲームでもそれが抜けなくて、黙って食べちゃうんだよね」


「わかりますっ。喋りながら食べることって、コロナ前は普通だったのに、今はなんか黙って食べちゃいますよね」


「ゲーム内には病気とか無いし、状態異常はログアウトかリープとかすればどうにかなっちゃうからなんにも気にしないでお喋りとかしていいのにね」


マリーとアーシャはそう言い合って、笑い合う。

木皿に盛った料理を食べ終えたアーシャは空になった木皿をテーブルに置き、自分のワイングラスに入ったオレンジジュースを一口飲んでから瞬く。


「あ。そうだ。ウチ、マリーちゃんと『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』のWPで交換した物の話とかしたかったのっ」


マリーはポテトサラダを口いっぱいに頬張ったところだったので、アーシャの言葉を聞いて何度も首を縦に振る。


「じゃあ、ウチから何を交換したのか報告するね。まずは往復の鳥(フレデリック・レーン宛て/一往復分)10セットと錬金万年筆とレターセットを交換したよ」


錬金万年筆とレターセット!?

なにそれ!! 知らない……っ!!

マリーはアーシャの言葉を聞いて目を丸くして、もぐもぐとポテトサラダを咀嚼して飲み込む。


「アーシャさんっ。私、錬金万年筆とレターセットはリストに出てきませんでした……!!」


「えっ? そうなの? 錬金万年筆とレターセットの入手条件は『ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』を受注してパーティーに出席。パーティーでフレデリック・レーンと話をするための列に一定時間以上並ぶこと』だったと思うんだけど」


「私がノーマさんの代理で列に並んだ時間では『列に一定時間以上並ぶ』っていう条件を満たさなかったのかも……」


「そうなのかなあ。あと、ウチは、ポストカード(緋色のローブを着たフレデリック・レーン)を2枚交換したよ。あと端数はスキルポイントと交換した。本当は往復の鳥と交換したかったんだけど、レターセットの便箋と封筒の枚数が10枚だったんだよね」


マリーはから揚げを頬張りながら、アーシャの言葉に首を縦に振って相槌をうつ。


「フレデリック様に二通手紙を出したんだけど、返事は全然貰えてないんだ。あと八通しか手紙を出せないから、何を書くのかめちゃくちゃ迷ってるんだよね……」


アーシャから手紙を貰っておきながら返事を出さないとは、なんという傲慢な態度だろうか!!

マリーはレーン卿の不誠実な対応に憤る。

次に領主館でレーン卿に会ったら『乙女心を蔑ろにするのはダメだと思う』と言い聞かせたい。

それとも、レーン卿本人ではなく彼の母親に告げ口をした方が効果があるだろうか。


「フレデリック様を狙ってる子はたくさんいるし、美形なレアキャラの競争率が高いのは仕方ないから、めげずに頑張ろうと思ってるんだ。でも『アルカディアオンライン』の恋愛イベントってどんな感じで展開するんだろうね」


「普通の乙女ゲームと同じ感じじゃないですか? たくさん会話をして友好度をあげたり、選択肢を選ぶ……っていうかNPCにとって好感が持てる感じの話題を振るとか……」


「そうだよね。じゃあ、フレデリック様との友好度が、複数のプレイヤーで同時に最高値とかになったらとうなるんだろう……?」


アーシャの疑問を聞いたマリーは首を傾げて口を開く。


「複数人数同時進行恋愛イベント発生とか……?」


「怖っ!! それ浮気じゃん……っ!!」


「ですよね……。でもゲームだからそういうのも有りとか……? マリーの両親や祖父母はお互いを愛してる浮気しない系NPCだと思うので、レーン卿も一人のプレイヤーかNPCを選んで恋人にしたり婚約者にしたりするのかも?」


「そうだよね。乙女ゲームは不倫とか浮気とか絶対NGだしね。寝取られとか炎上案件だし」


「ネトラレ?」


耳慣れない言葉に、マリーは首を傾げる。


「あー。うん。えーっと、マリーちゃんにはまだ早いワードだったよね。ウチとしては『寝取られ』の意味がわからないままのマリーちゃんでいてほしいよ」


「アーシャさんが教えてくれないなら、情報屋さんに聞いてみます。『ネトラレ』のこと」


「絶対にやめて!! ウチも教えないけど質問された人とか絶対困るし、場合によっては事案になるから!! 『寝取られ』のことはもう忘れよう。ね?」


必死に言うアーシャに、マリーは渋々肯いた。



***


紫月19日 夕方(4時41分)=5月15日 20:41



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る