第三百三十二話 マリー・エドワーズと真珠は『クリーン』をかけてもらって作業台の上に乗り、ユリエルはナナの抱っこから逃れようとする
夕食を食べ終えたマリーたちは食後の休憩をした後、厨房に向かった。
領主一族の晩餐を供し終えた厨房内には穏やかな空気が流れている。
半数ほどの料理人は食事をするために厨房から使用人用の食堂へと移動していた。
マリーと真珠、ユリエルが侍女長とナナを伴って領主館の厨房に足を踏み入れると片づけをしていた副料理長のアールと女性料理人のエリンは作業台に移動して一礼した。
花の町カーヴァーの領主の三男で若手の料理人のダンテは保冷庫で寝かせていたクッキー生地を取り出して作業台に置き、麺棒で手早く薄く四角い形に成形する。
「お待ちしていました。ユリエル様。マリー様。真珠様」
副料理長のアールはマリーたちにそう言って、作業台へ移動するようにと促す。
一同が作業台の前に移動した後、ナナは真珠を抱き上げ、侍女長が真珠に『クリーン』をかけた。
真珠は一連の流れを覚えているのでおとなしくしている。
清潔になった真珠をナナが作業台の上に乗せた。
真珠はおすわりをして白い服を着た人たちの指示を待つ。
侍女長はマリーを見つめて口を開いた。
「今回はマリーさんにも作業台の上に乗ってもらいます。マリーさん。靴を脱いでください。ナナは靴を脱いだマリーさんを抱き上げてください」
「はいっ」
「かしこまりました」
マリーとナナはそれぞれに侍女長に肯き、マリーは木靴を脱いだ。
ナナが木靴を脱いだマリーを抱き上げ、侍女長がマリーに『クリーン』をかける。
清潔になったマリーをナナが作業台の上に乗せた。
マリーは作業台の上に座り、作業台を見回す。
作業台には四角く成形されたクッキー生地とさまざまな『型』が用意されていた。
ハート型や星形、丸い形、花の形がある。
マリーはハート型の型でクッキーを作りたいなあと思った。
できればユリエルに、マリーが型抜きをしたハート型のクッキーを食べてもらいたい。
真珠はマリーと一緒に作業台の上に乗ることができて嬉しくて、尻尾を振る。
真珠とマリーが作業台に乗った後、侍女長はユリエルを見つめて口を開いた。
「ユリエル様はナナが抱き上げます」
「えっ……。いや、いいよ」
ユリエルの中の人である要は中学二年生男子のプライドにかけて、ナナの抱っこを拒否した。
「ユリエル様っ。私、STR値だけは高いので、絶対にユリエル様を落としたりしませんっ。信じてください……!!」
なぜ侍女のナナがパワーファイターのような能力値構成になっているのか疑問に思いながらユリエルは首を横に振り、口を開く。
「俺はクッキーの型抜きは遠慮するよ。マリーちゃんと真珠くんが型抜きしたクッキーを食べたいから」
ユリエルがナナの抱っこから逃れるために微笑みながらそう言うと、作業台の上のマリーと真珠は張り切った。
「ユリエル様っ。私、クッキーの型抜きを頑張りますね!!」
「わうわう、わおんっ!!」
「期待してるね」
ユリエルは元気に言うマリーと真珠に微笑みながら、さりげなく作業台から距離を取る。
ユリエルは断固として!! 抱っこでの作業を拒否する!!
こうしてクッキーの型抜き作業はマリーと真珠が担当することになった。
***
紫月17日 夜(5時50分)=5月15日 9:50
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