第三百二十七話 マリー・エドワーズと真珠は侍女長、ユリエルと共に厨房へ向かう



マリーがベッドの上に立って手鏡の鏡の面を下に向け、真珠の姿を映し、真珠が手鏡を見上げて喜んで飛び跳ねていると、部屋の扉をノックする音がした。


「ユリエル様かも……っ!!」


マリーはそう言った後、手鏡を左腕の腕輪に触れさせてアイテムボックスに収納してから、ベッドから飛び下りる。

真珠はもう少し手鏡を見ながらマリーと一緒に遊びたかったと思ったけれど、ユリエルに会えるのは嬉しいので気を取り直してベッドから飛び下りた。


扉が開いて、部屋に入ってきたのは侍女長だった。

隙のない装いをした侍女長は、美しく頭を上げてマリーを見つめる。


「グラディス様……っ」


「わんわん……っ」


マリーと真珠は侍女長に駆け寄る。

侍女長はマリーと真珠を見つめて眉をひそめ、口を開いた。


「マリーさん。真珠。部屋の中で走ってはいけません」


「はい。ごめんなさい……」


「わわんわわう……」


侍女長に叱られてマリーと真珠は項垂れる。

侍女長の背後からユリエルが姿を現し、項垂れているマリーと真珠に視線を向けて口を開いた。


「グラディス。マリーちゃんと真珠くんにはのびのびと過ごしてもらいたいから、厳しいことを言わないで」


「かしこまりました。ユリエル様」


侍女長は身を引き、ユリエルに一礼して言った。

ユリエルは護衛騎士に部屋の外で待つように指示してマリーと真珠に歩み寄る。


「ユリエル様!!」


「わうわう!!」


マリーと真珠はユリエルに会えたことが嬉しくてはしゃぐ。

ユリエルは今日も華麗な装いで、とても素敵だ。

ユリエルはマリーを見つめて微笑み、口を開く。


「マリーちゃん。一緒に厨房に行こう。お菓子を作れるように準備してもらっているから」


「本当ですか!? ありがとうございます!!」


「わうーっ。わんわんっ」


ユリエルの言葉を聞いたマリーは頬を紅潮させて喜び、真珠はマリーが嬉しそうにしているのを見て嬉しくて尻尾を振った。


港町アヴィラの領主子息であり、領主からただ一人の子として溺愛されているユリエルが強権を発動すれば領主館内で叶えられないことはほとんど無い。

『ユリエル・クラーツ・アヴィラ』は正しくレアキャラだと要は思う。

母親から株主優待のキャラコードを貰って『ユリエル・クラーツ・アヴィラ』を主人公に選び、ゲームを始めて本当によかった。


嬉しそうなマリーと真珠を見つめて微笑みながら、ユリエルはお菓子作りを楽しみに、侍女長に先導され護衛騎士を引き連れて、マリーと真珠と共に領主館の厨房へと向かった。


***


紫月17日 夕方(4時35分)=5月15日 8:35



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る