第三百二十六話 マリー・エドワーズは着替えて手鏡で身だしなみをチェックし、真珠は手鏡で自分の姿を見たいとねだり、ユリエルからのメッセージを確認する



ナナが部屋を出て行った後、マリーはアイテムボックスから丸襟のブラウスとキュロットスカートを取り出して着替える。

リアルでは洗濯をしないで同じ服を何回も着るなんて災害時や非常時以外には考えられないが、ここはゲームの世界だ。

洋服もデータである。汚れていない。大丈夫だ。


着替え終えたマリーはアイテムボックスから木靴を出してスリッパを脱ぎ、履き替える。それから脱いだ夜着を畳んでベッドの端に置いた後、アイテムボックスから手鏡を取り出して身だしなみをチェックした。


「わうーっ!! わんわんっ!!」


マリーの着替えを見守っていた真珠は自分も手鏡を見たくてマリーにねだる。


「真珠。どうしたの?」


「わんわんっ!!」


真珠はマリーが手に持っている手鏡をじっと見つめて吠え、激しく尻尾を振る。

マリーは真珠の様子を見て少し考えた後に口を開いた。


「真珠は手鏡が見たいの?」


「わんっ!!」


真珠は何度も首を縦に振る。

真珠は手鏡で自分の姿を見たい……!!

マリーは何度も首を縦に振る真珠を見て微笑み、口を開いた。


「そうなんだね。じゃあベッドの上に乗って一緒に手鏡を見ようね」


「わんわんっ!!」


真珠は天蓋付きのベッドに駆け寄り、飛び乗った。

マリーも木靴を脱いでベッドに乗り、真珠を抱っこする。

それからマリーは手鏡に真珠の顔を映した。


「真珠。手鏡に映っている可愛くてかっこいい男の子が真珠だよ」


「わんわぅ」


真珠は手鏡をじっと見つめる。

マリーが手鏡を見つめている真珠を微笑ましく見守っていると可愛らしいハープの音が鳴った。

フレンドからのメッセージが来たようだ。


「ステータス」


マリーは右手で手鏡を持ちながら、目の前に出現したステータス画面を左手の指で操作する。

メッセージの送り主はユリエルだった。


「もしかして一緒に遊べるのかも……っ」


マリーはわくわくしながらユリエルからのメッセージを確認する。





悠里ちゃん。おはよう。

リアルでメッセージをありがとう。

俺は朝ご飯はフルーツグラノーラとヨーグルトだったよ。

甘酒のフレンチトーストは食べたことないから、今度作り方を調べて作ってみる。


今、ゲームにログインして転送の間にいるよ。

マリーちゃんに会いに行っても大丈夫そうならメッセージをください。





ユリエルからのメッセージを読み終えたマリーは大喜びした。

でも左手だけでメッセージを記載することに手間取りながらユリエルへの返信を書き終えた。





ユリエル様。メッセージをありがとうございます。

私は支度を終えて、ログアウトの時に使わせてもらった部屋のベッドの上で、今、真珠と一緒に手鏡を見ています。

会いに来てもらえたらすごく嬉しいです。


あと、ナナさんに『お菓子を作りたいので領主館の台所を貸してもらえないか』と頼んでいます。

できればお菓子の材料も買いたいです。

お菓子の作り方も教えて貰えたら嬉しいと伝えています。


今日の夜、アーシャさんからゲーム内で女子会に誘われてるので、お菓子を持っていけたらいいなと思って。

女子会ですけど、真珠も参加オッケーです。


私は料理スキルを取ったので、スキルレベルも上げたくてお菓子を作りたいなあと思ってます。

ユリエル様と真珠と一緒にお菓子を作れたら楽しいだろうなあと思います。

ユリエル様が来てくれるのを真珠と一緒に待っていますね。





マリーは自分が書いた内容を二度読み返してユリエルに送信した。


「送信終わりっ。クローズ」


マリーはステータス画面を消して、手鏡を見つめる真珠に視線を向けて口を開いた。


「真珠。もうすぐユリエル様が会いに来てくれるよ。楽しみだねっ」


「わんっ」


真珠はマリーの言葉に肯き、ユリエルが来たらきっと手鏡を見るのは終わりになるだろうから、今のうちにたくさん眺めておこうと思って熱心に手鏡を見つめた。


***


紫月17日 夕方(4時21分)=5月15日 8:21



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