第三百二十五話 マリー・エドワーズは真珠にレベル上げのお礼を言って、真珠と一緒に女子会に参加すると告げ、ナナに今日の日にちを確認する



マリーが目を開けると部屋の中は薄暗かった。

……雨音が聞こえる。

ここは、レイチェル様が子どもの頃に使っていた部屋だ。

マリーはシルクの夜着を着てベッドに横たわっている。


「わうー。わうわぅ」


マリーの隣に寝ていた真珠がマリーの顔に自分の顔を摺り寄せながら言う。

室内にはベッドで横たわるマリーと真珠の他に人はいないようだ。


「おはよう。真珠」


マリーは真珠の頭を撫でて微笑んだ。


「あのね。真珠。私のステータスを確認したら種族レベルが3になってたんだよ。真珠がモンスター討伐を頑張ってくれたおかげだよ。ありがとう。真珠」


「くぅん。きゅうん」


真珠はマリーに褒めてもらって嬉しくて、マリーに甘える。

ユリエルと一緒に西の森でモンスター討伐をしたのは、真珠には楽しい思い出だ。

でも、モンスター討伐をしている間ずっと、真珠はマリーと離れて寂しかった。

真珠はあの時、楽しい気持ちと寂しい気持ちを同時に味わっていた。そのことを思い返すと真珠は不思議な気持ちになる。

マリーは真珠を撫でながら口を開く。


「今日の夜……リアル時間の夜ね。ゲーム時間では何時かわからないんだけど。『女子会』っていうのがあるの」


「くぅん?」


真珠は『じょしかい』がわからなくて首を傾げた。

マリーは話を続ける。


「『女子会』っていうのは仲良しの友達が集まって楽しくお喋りする会のことなんだけど、アーシャさんが私と真珠を『女子会』に招待してくれたんだよ」


「わおんっ!!」


真珠は、マリーと一緒に『じょしかい』に行けるのだとわかって大喜びした。

真珠が嬉しくてベッドから飛び下り、部屋を駆け回っていると静かに扉が開いてナナが姿を現す。


ナナは黒髪で黒い目の少女で、領主館で侍女として働いている。

マリーと真珠が領主館に滞在する時に、ナナが世話をしてくれることが多い。

優柔不断でややうっかりしたところがある性格のナナは、実は力が強く、マリーを軽々と抱っこして走ることもできる。


「お目覚めだったんですね。おはようございます。マリーさん、真珠さん」


ナナはそう言いながら、部屋の明かりをつけた。


「おはようございます。ナナさん」


「わうわうわうぅわう」


ベッドから下りたマリーとナナの足元に駆け寄った真珠は、ナナに挨拶をした。

マリーはナナを見つめて口を開く。


「ナナさん。今日は何日ですか?」


ゲーム内の日にちを知りたくて、マリーはナナに質問した。

ナナはマリーを見つめて口を開く。


「本日は紫月17日です。現在の時間帯は『夕方』です」


「最近、ずっと雨が降っていますよね。紫月はずっと雨が降る月なの?」


マリーが問いかけるとナナは肯く。


「そうです。紫月は『夜』以外の時間帯はずっと雨が降り続きます。『夜』の時間帯は雨が止んで雲が切れて、紫色の月が見られます」


ナナの言葉を聞いたマリーは、そういえば、前回ゲームをプレイした時に領主館前に馬車が到着した時には雨が止み、紫色の月が出ていたことを思い出す。

ナナはマリーと真珠に視線を向けて口を開いた。


「マリーさんと真珠さんはお食事になさいますか?」


「いいえ。あの、私、ナナさんに……というかグラディス様にお願いがあるんですけど……」


「侍女長に? たぶんマリーさんのお願いならたいていのことは叶えられると思いますけど……」


「本当ですかっ!?」


「いえ、あの、私が勝手にそう思っているだけなので、ダメって言われることもあるかもしれないです」


ナナは相変わらず頼りない。でも、マリーは自分の願いを口にすることにした。


「私、お菓子を作りたいんですっ。お金を払うので領主館の台所を貸してもらいたいの。あと、材料も買いたいです。できれば簡単なお菓子の作り方を教えて貰えたらすごく嬉しいですっ。この前のパーティーで出されたお菓子、すごくおいしかったのでっ」


お菓子!!

マリーの言葉を聞いた真珠の青い目が輝いた。

マリーの言葉を聞いたナナは難しい顔をして口を開く。


「マリーさんがお菓子を作るんですか? 厨房の料理人がお菓子を作るのではダメなのでしょうか?」


「えっと、今日、私と真珠は『女子会』に招待されていて」


「じょしかい」


ナナはマリーの言葉を聞いて首を傾げた。

『アルカディアオンライン』には『女子会』の概念は無いらしい。


「ええと、仲良しの友達が集まってお喋りするパーティーに行くことになってるんですけど」


「もしかして、お茶会のことですか?」


「おちゃかい」


ナナの言葉にマリーは首を傾げた。真珠も『おちゃかい』がわからなかったので首を傾げる。


「お茶とお菓子が給仕される、小規模なパーティーのことですよね? 貴族の奥方やご息女はよく行っているようです。領主館では、領主様の奥方が亡くなってからはお茶会は行われていないようですけど……」


ナナの説明を聞いたマリーは何度も肯く。


「そうですっ。そんな感じですっ」


「わかりました。とりあえず侍女長に確認してきます」


「待ってください。ナナさん」


マリーは部屋を出て行こうとするナナを引き留めた。


「えっと、イヤリングに話しかければ確認できるんじゃないんですか?」


マリーは以前、パーティーを終えた後にナナがイヤリングを使って侍女長の指示を仰いでいたことを覚えていた。

うっかりしている性格のナナは、うっかり便利アイテムの存在を忘れているのかもしれないと思いながらマリーが言うと、ナナが口を開く。


「厨房にも確認に行かないといけないと思うので、とにかく行ってきます」


ナナはマリーに一礼して慌ただしく部屋を出て行った。


***


紫月17日 夕方(4時10分)=5月15日 8:10



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