第三百二十一話 5月12日/高橋悠里はリビングで母親と対峙する



「ゲーム機器を没収したってどういうこと……?」


悠里は母親を見つめて問いかける。


「とにかく、まずはマスクを捨てて、手洗いうがいをしてきなさい」


母親はそう言って悠里から視線を外し、テレビの画面に視線を向けた。

テレビは夕方のニュース番組を放映している。

ニュースの内容は、新型コロナのことばかり。

悠里はイライラしながらリビングのゴミ箱にマスクを捨て、それから洗面所に向かった。


洗面所で手洗いうがいを終え、自分専用のタオルで口を拭く。

鏡に映る悠里の顔は、眉根が寄って不機嫌そうだ。


「……せっかく楽しい一日だったのに」


要と、ゲームで遊ぶ約束だってしたのに。

絶対にゲーム機器を返してもらう!!

強い決意を胸に、悠里は母親が待つリビングに向かった。


悠里がリビングに姿を現すと、母親はテレビのリモコンを手にしてテレビを消した。

悠里はソファーに座って悠里を見つめる母親に歩み寄り、口を開く。


「ゲーム機器を没収したってどういうこと?」


「そのままの意味よ。中間テストが近いのに悠里がゲームばっかりして夜更かしして、朝起きられないからゲーム機器を没収したの」


「私に何も言わずに勝手にゲーム機器を持ち出すなんてひどい!!」


「勉強しないで中間テストで平均点以下の点数を取って、補習を受ける羽目になって困るのは悠里なのよ」


母親に正論を真正面からぶつけられ、悠里は怯んだ。

でも、ここで負けるわけにはいかない……!!

悠里は母親を睨んで口を開く。


「今日、先輩とゲームで会う約束してるの!! だからゲーム機器を返して!!」


「その先輩とはリアルで連絡が取れないの?」


「取れるけど……」


「じゃあリアルで連絡を取って『中間テストが終わったら一緒に遊ぼう』って言いなさい。『先輩』っていうことはその子も中間テストを受けるんでしょう? 勉強の邪魔をしたらダメよ」


正論!!

母親の正論攻撃!!

悠里は心に致命的なダメージを受けた……。


「……わかった。お母さんの言うことが正しいと思う。でも今週の土日はゲーム機器を返して。ゲームで遊べるのは6時間だけだから、思いっきり遊んだらちゃんと勉強する。それならいいでしょ?」


悠里は母親に交渉する。

土曜日には、真子から誘われた『女子会』がある。できれば参加したい。

母親は頑固に口を引き結び、母親の言葉を待っている悠里の顔を見てため息を吐いた。


「わかったわ。土曜日と日曜日はゲームで遊んでもいい。だけど日曜日は夜更かししちゃダメよ」


「うんっ!! ありがとう!! じゃあ、私、部屋で着替えてくるね……っ!!」


悠里は笑顔になってリビングを出て行く。

母親が悠里の部屋から『悠里の許可を得ずに勝手にゲーム機器を持ち出した』というのが問題なのだが、悠里はすっかり機嫌を直して、それ以上この問題について考えることはなかった……。



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