第三百二十話 高橋悠里はグレーの不織布マスクが届いて喜び、自室で充電していたゲーム機器が部屋からなくなっていることに気づいて動転する



悠里は要と駅ビル内でウィンドウショッピングを楽しみ、要に家まで送ってもらって彼と別れた。

悠里は幸せな気持ちで要の姿が見えなくなるまで彼を見送って、家の中に入る。


「ただいまー!!」


悠里は玄関で元気よくそう言って、靴を脱ぐ。

今日はいい一日だった。意地悪を言う先輩は部活に来なかったし、大好きな要と放課後デートができた。


帰宅した悠里を母親が出迎えてくれた。いつも悠里を出迎えてくれる祖母は姿を見せない。

母親は悠里を見つめて口を開いた。


「おかえり。悠里が欲しがっていたグレーの不織布マスクが届いたから、リビングのサイドボードの上に置いておいたわよ。グレーの不織布マスク、お父さんやお祖父ちゃんも使っていいのよね?」


「うんっ。グレーの不織布マスク、嬉しい。明日から学校につけていくね。お祖母ちゃんは?」


「テレビで見たおいしそうな料理を晩ご飯に作ってくれるって」


「へえ。どんな料理?」


「豚肉と春雨と塩揉みした白菜の炒め物」


「ふうん」


母親が口にした料理名は、悠里にとっては心惹かれるものではなかった。

でも、祖母が作るのだからきっとおいしいと思う。

悠里は通学鞄を自室に置くために、階段を上がって二階へと向かった。


自室に入り、祖母が置いてくれた包装紙とマスクケースを机の端に寄せる。

そして通学鞄を机の上に置きながら、学校から持ち帰ったノートパソコンを鞄から出した。

それからノートパソコンを充電しようとして……充電しているはずのゲーム機器がなくなっていることに気づいた。


「えっ? なんで充電してたヘッドギアとゲーム機がないの……っ?」


悠里は驚いて部屋を見回した。

ゲーム機器が入っていた段ボール箱も部屋からなくなっている。


「まさか泥棒が入ったの……っ!?」


動転した悠里は部屋の窓を確認した。

窓は閉まっていて鍵もかかっている。窓ガラスが割れているということもない。

まさか、鍵が掛かっていない玄関のドアからそーっと入った泥棒が悠里が充電していたゲーム機器を持ち出したのだろうか。


「通帳はあるよね……っ!?」


悠里は引き出しにしまっている通帳を確認した。ちゃんとある。カードと印鑑もある。

でもやっぱり、充電していたゲーム機器は部屋のどこにもなかった。

悠里は自分の部屋から充電していたゲーム機器が消えてしまったと母親と祖母に訴えるために一階に向かった。


「お母さん!! 私のゲーム機器がなくなっちゃった!!」


悠里は一階のリビングに駆け込みながら、テレビを見ていた母親に訴える。

母親はテレビの画面から悠里に視線を移して口を開いた。


「悠里。まずはマスクを捨てて、手洗いうがいをしてきなさい」


「そんなことやってる場合じゃないよっ。泥棒が入ったかもしれないんだよ……っ」


「ゲーム機器を没収したのはお母さんよ。泥棒じゃないわ」


母親の言葉を聞いた悠里は愕然として立ち尽くした。



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