第三百十三話 マリー・エドワーズたちは馬車に乗り、マーキースは自分を探す父親の部下から身を隠そうとする



マリーたちはユリエルの馬車に乗り込む。

護衛騎士の一人は御者席に座り、一人はマリーたちと共に馬車内に乗った。

座る位置はマリー、ユリエル、護衛騎士。マリーたちの向かい側にマーキースとウェインだ。


5人が乗っても馬車内のスペースには余裕があるが、マリーは領主館の門の前でマリーと真珠を『門前払い』した男と一緒にいるので気まずい。

いつも馬車に乗る時は窓際で窓の外を眺める真珠だったが、今はマリーの膝の上に座り、護衛騎士の男を警戒している。

ユリエルは隣に座るマリーと真珠の様子が気になったが、今、質問をすべきではないと考えて黙っていた。


マリーとユリエルの向かいの席に並んで座ったマーキースとウェインは、それぞれに窓の外を見て初めて乗る馬車からの風景を楽しんでいたが、マーキースが突然、窓から身を屈めた。

マーキースの行動を見て、馬車内の護衛騎士が緊張して剣の柄に手を掛け、口を開く。


「どうかされたのですか……っ!?」


「クソオヤジの部下が、あ……じゃなくてボクを探しているっぽいのを見かけて……」


マーキースは身体を丸めながら護衛騎士に答える。


「マーキースはマーキースの親父の書斎からでっかい金庫をアイテムボックスに収納した後、四階の窓から飛び下りて死に戻りしたんだ」


ウェインはマーキースが彼の父親の部下から追われている理由を説明した。


「それはすごいね。ウォーレン商会の会頭にはいい薬だ」


ウェインの言葉を聞いたユリエルが微笑んで言う。

そして自分の姿が窓から見えないように身を屈め続けているマーキースに視線を向けて口を開いた。


「マーキースは家に帰れないよね。落ち着く先が決まるまでは領主館に滞在する?」


「いいんですか? ぜひお願いしたいですっ。ボクの宿泊滞在費は売却代金から引いてください」


マーキースは身を屈めたまま、ユリエルに頭を下げて言う。

マリーはマーキースが父親から追われていなければ『銀のうさぎ亭』にいてもらうのになあと思った。


「マーキースはどのくらいの金額での売却が希望なの?」


首を傾げて問いかけるユリエルに少し考えてからマーキースは口を開いた。


「とりあえず、最低販売価格は3000万リズで考えてます」


「3000万リズ!!」


マーキースの言葉を聞いたマリーは目を剥いて叫ぶ。

マーキースが口にしたのはマリーが必死でお金を貯め、それでも届かなかった金額である『1000万リズ』の三倍の金額だった。

真珠は目を剥いて叫んだマリーに驚いて、びくっと身体を震わせる。

目を剥くマリーを見て苦笑しながらマーキースは口を開いた。


「3000万リズあれば『転生』の条件の『聖人殺しの短剣』を入手できると思うし、転生した後に『九星堂書店』の工房の支援もできると思うんだよね」


マーキースの言葉を聞いたマリーは二度瞬き、口を開いた。


「は……じゃなくてマーキースは王都を目指すつもりなの?」


『聖人殺しの短剣』は王都の錬金術師ギルドが保有している。

マリーの問いかけにマーキースは肯いて口を開いた。


「この主人公を選んだのはお金目当てだったからね。今はクソオヤジに追われてるし、アイテムボックスにゲーム内通貨を収納してから転生した方がゲームを楽しめると思って」


護衛騎士は前髪で目が隠れている少年、マーキースの言葉を聞いて眉をひそめた。

主人公を選ぶ? お金目当て? アイテムボックスにゲーム内通貨を収納?

……てんせい?

護衛騎士には全く意味がわからないことを口にするマーキースに、馬車内にいる誰もが異議を唱えない。

『聖人』の思考や会話の薄気味悪さに、護衛騎士は恐怖を覚える。

だが、彼の職務は『貴人の護衛』だ。命をかけて『ユリエル・クラーツ・アヴィラ』を守る。

護衛騎士は聖人たちの会話に惑わされないように自らを戒めた。



***


紫月3日 夕方(4時59分)=5月11日 20:59

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