第二百九十五話 マリー・エドワーズは祖母からグリック村のノーマが村に帰ったと聞かされ、マリーはメシマズを回避するために嘘を吐く



マリーと真珠は一階に到着した。カウンターには祖母がいる。

祖母はマリーと真珠に微笑んで口を開いた。


「マリー。真珠。起きたのね。おはよう」


「おはよう。お祖母ちゃん」


「わうわぅ」


マリーと真珠は祖母に笑顔で挨拶をする。

マリーと真珠の挨拶を受け、祖母は口を開いた。


「グリック村のノーマちゃん。昨日の朝にグリック村に帰ったわよ。マリーが目覚めるのをギリギリまで待ってくれていたんだけどね。『案内はできなかったけど、いつでも村に遊びに来て』と言ってくれたわよ」


「あ……っ」


マリーはノーマとの約束をすっかり忘れていた。

リアルの学校生活が怒涛過ぎてゲームのことを一部忘れてしまったのだけれど……それは、言い訳だ。

『アルカディアオンライン』のNPCには感情があり、友好度がある。

リアルもゲームも人間関係を大事にしよう。頑張ろうと思いながらマリーは口を開いた。


「お祖母ちゃん。グリック村ってどのくらい遠いの?」


「馬車で一時間もあれば着くと思うけれど、グリック村への辻馬車は無いのよねえ。数日ごとにグリック村の村長さんが卵や野菜、果物等を領主館に納めに来て、そのついでに商人ギルドに商品を卸してくれるのよ。うちは村長さんの定宿だから、形が悪い野菜や小さな卵を安く分けてもらっているの。ミルクは定価で購入しているのよ」


「そうなんだ」


グリック村には卵やミルクだけでなく果物もある。

ぜひ行きたい。そしてうなるほどあるゲーム内通貨でおいしい食材を大人買いしたい。

マリーはそう思った直後に、家族へのお土産があることを思い出す。


「ステータス」


ステータス画面を出現させてアイテムボックスから『真珠の食べかけ』でない『お菓子の詰め合わせ』を取り出して祖母に差し出す。


「お祖母ちゃん。あのね。これ、領主館で開催されたパーティーの出席者に配られたお土産なの。おいしいお菓子が入ってるからお母さんやお父さん、お祖父ちゃんたちと食べてね」


「こんなに綺麗な紙の箱に入ったものを、お土産にいただくなんて……」


祖母は戸惑いながら、マリーからお菓子が入った箱を受け取った。


「ぎゃうんっ!!」


真珠は自分のお菓子の箱が祖母の手に渡されたと思って衝撃を受けた。

マリーは真珠の顔を覗き込み、微笑んで口を開く。


「真珠が食べていたお菓子の箱はちゃんと収納してるよ。大丈夫」


「わうー。くぅん……?」


「真珠。ユリエル様を待ちながら、さっきのお菓子を食べてる?」


「わんっ!!」


マリーの言葉に真珠は肯き、尻尾を振る。

マリーはアイテムボックスから『お菓子の詰め合わせ(真珠の食べかけ)』を出して床に置く。

マリーがお菓子の箱を開けると、真珠は頭を箱の中に頭を突っ込んでお菓子を食べ始めた。

『ユリエル様を待ちながら』と言ったマリーの言葉を聞き咎めた祖母が口を開く。


「マリー。もしかしてまた出かけるの?」


「うん。もうすぐユリエル様が私と真珠を馬車で迎えに来てくれるの」


「馬車? ユリエル様っていうのは領主様の息子さんの名前じゃなかった? マリーはそんな偉い人と出かけることになったの?」


「うん。ユリエル様は優しくてかっこよくて、素敵な人なんだよ……っ」


マリーはユリエルの素晴らしさを祖母に力説した。


「でも、せっかく起きたのにすぐに出かけてしまうなんて……。お腹は空いてない? ご飯を食べてから行きなさい」


「大丈夫っ。私、真珠と一緒に部屋でお菓子を食べたから……っ」


真珠はマリーの言葉を聞いて、お菓子の箱から顔を上げて首を傾げる。

マリーは部屋でお菓子を食べていない。お菓子を食べたのは真珠だけだ。

マリーの言い訳を聞きながら真珠が首を傾げていると、扉が開いてユリエルが現れた。


「マリーちゃん。真珠くん。迎えに来たよ」


微笑んで言うユリエルの言葉を聞いて、真珠は箱に残っていたお菓子を急いで食べ切る。

マリーは祖母との話を切り上げて、ユリエルに駆け寄った。


***


紫月3日 早朝(1時59分)=5月11日 17:59



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