第二百九十四話 マリー・エドワーズは目覚めた真珠に『お菓子の詰め合わせ』を渡し、濃い青色のワンピースドレス等をアイテムボックスに収納して支度を終える



マリーは目を開けた。部屋の中は薄暗い。


「わうー。わううぅ」


マリーの隣で寝ていた真珠が、目覚めたマリーの顔に自分の顔を摺り寄せる。


「真珠。おはよう」


マリーは隣にいる真珠をぎゅっと抱きしめながら口を開く。


「ステータス」


ステータス画面の明かりで周囲を見渡す。

部屋の中にはマリーと真珠しかいないようだ。……雨音が聞こえる。


「雨が降ってる……?」


マリーは抱きしめている真珠を解放して、ベッドから起き上がった。

マリーはいつも着ている寝巻姿だ。


「ワンピースドレスとリボンは……っ!?」


前回のログアウト時は、パーティーから帰った時のままの姿でベッドに潜り込んで寝てしまった。

ベッド脇を見ると、マリーがいつも使っている布のスリッパの横にパーティーの時に履いていた白いパンプスがあってほっとする。


「よかった。白いパンプスはある……。真珠。私、ワンピースドレスと白いリボンを探すね。それから着替えたりするから、ちょっと待ってて」


「わんっ」


「あ。そうだ。『お菓子の詰め合わせ』を出すから食べててね。真珠へのお土産なの」


マリーはアイテムボックスから『お菓子の詰め合わせ』を一つ取り出して、箱を開けた。

真珠に箱の中身がよく見えるように『ライト』で一つ、光の玉を出現させる。


「わっうー!!」


真珠は箱の中に入っている色とりどりのお菓子やクッキーを見て目を輝かせる。

箱の中のお菓子はリアルのようにラッピングされているわけではなくむき出しの状態だったので、真珠は箱の中に頭を突っ込んで食べ始めた。


マリーは尻尾を振りながらお菓子を食べている真珠に微笑み、そしてベッド脇に置いてある布のスリッパを履いて、白いパンプスをアイテムボックスに収納する。

光の玉はマリーを追って移動したけれど、真珠は気にせずにお菓子を食べ続けている。


マリーはクローゼットに向かった。

クローゼットの扉を開けると、濃い青色のワンピースドレスが木のハンガーに掛けてあった。よかった。

マリーは濃い青色のワンピースドレスをアイテムボックスに収納する。


「白いレースの靴下と、リボンはどこ……っ?」


マリーはそう言いながら自分の机に向かう。

机に上には白いレースの靴下と、リボンが畳んで置いてあった。


「靴下とリボン、あった。よかった……」


マリーは白いレースの靴下と『白薔薇蜘蛛糸のリボン』をアイテムボックスに収納した。

そして、寝巻を脱いで丸襟のブラウスとキュロットスカートに着替える。

マリーひとりではリボンを髪に結ぶことができないので、今は『疾風のブーツ』を履くことができない。

アイテムボックスから木靴を出して素足で履く。それから手鏡をアイテムボックスから取り出して身だしなみをチェックした。

うん。可愛い。素朴な装いでもマリーのグラフィックの可愛さは損なわれない。

マリーの可愛さを確認して満足したので、手鏡をアイテムボックスに収納する。


「真珠っ。お待たせ……っ」


脱ぎ捨てた寝巻を畳みながら、マリーはベッドの上でお菓子を食べている真珠に歩み寄る。


「わうーっ。わんわんっ」


お菓子が入っている箱に顔を突っ込んでいた真珠はマリーに呼ばれて顔を上げた。

箱の中のお菓子は半分ほどなくなっている。


「真珠。あのね、ユリエル様が私と真珠を馬車で迎えに来てくれるの。だから、一階のカウンター前でユリエル様を待とうね」


本当は宿の前で馬車を待ちたかったけれど、雨の中、外で待つのは躊躇われてマリーはそう言う。


「きゅうん……。わんっ」


真珠はまだお菓子を食べていたかったが、ユリエルに会えるのは嬉しいので肯いた。

真珠はユリエルと一緒にモンスター討伐をしてから、ユリエルのことが以前よりもっと好きになったのだ。


「真珠のお菓子はアイテムボックスに収納しておくからね」


マリーは畳んだ寝巻をベッドの上に置き、真珠の食べかけのお菓子を左腕の腕輪に触れさせて収納した。

アイテムボックスを確認すると『お菓子の詰め合わせ(真珠の食べかけ)』と表示されている。わかりやすい。

ゲーム制作スタッフ、グッジョブ。


真珠がお菓子を食べ散らかしたので、マリーと真珠のベッドの上にはお菓子のくずが散乱している。

でもマリーはそれを見ないふりをした。

今は『掃除』をして『掃除』スキルを上げている場合ではない。


「真珠。一階に行こうね」


「わんっ」


マリーと真珠はベッドのある部屋を出て、段差の大きい階段を下りて一階へと向かった。


***


紫月3日 早朝(1時54分)=5月11日 17:54



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