第二百九十三話 5月11日/帰宅してすぐにログイン



悠里は晴菜に手を振って彼女と別れ、帰宅した。


「ただいま」


悠里はそう言いながら玄関の靴箱の上に視線を向ける。

昨夜、悠里が置いた空の段ボール箱は無かった。

祖父が片づけてくれたのかもしれない。

祖母や母親が学校から帰った悠里を出迎える気配はなかった。

もしかしたら、二人とも晩ご飯の支度で忙しいのかもしれないと思いながら、悠里は通学鞄を置きに二階の自室へと向かう。


自室の机の上に鞄を置いてマスクをゴミ箱に捨てた後、悠里は一階の洗面所へ。

洗面所で手洗いとうがいをした後、自室に向かう。

母親と祖母に顔を見せずに自室に向かうのは少し気が引けるけれど、悠里はゲームで要と会う約束をしているのだ。

要を待たせたくない。


悠里は階段を上がって二階の自室に行き、通学鞄からノートパソコンを取り出して充電する。

それから制服から部屋着に着替えて、充電していたヘッドギアとゲーム機をベッドの上に置き、コードで繋ぐ。

それからゲーム機とヘッドギアの電源を入れ、ヘッドギアをつけた。

悠里はベッドに横になり、目を閉じる。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

さっき着替えた部屋着姿になっている。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。プレイヤーNO2985490ユリエル・クラーツ・ アヴィラからメッセージが届いています」


「ユリエル様からメッセージが来てるの!? ステータス!!」


悠里はステータス画面を表示させて、フレンド機能でユリエルからのメッセージを確認する。





今、ログインしたよ。俺は今、領主館の自分の部屋にいるんだけど、『銀のうさぎ亭』にマリーちゃんと真珠くんを馬車で迎えに行こうと思っています。

都合が悪いようならメッセージをください。





「大変!! 早くゲームを始めなくちゃ……っ!!」


ユリエルが馬車で『銀のうさぎ亭』に到着する前に、マリーの支度を終えなければいけない。


「えっと、まずはユリエル様に返信しなくちゃだよねっ」


悠里はユリエルに『今、ログインしました。『銀のうさぎ亭』で真珠と一緒にユリエル様を待ってます』と返信した。


「返信終了っ。じゃあ、私、ゲームをプレイしますね」


「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」


サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。





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