第二百八十五話 高橋悠里は颯太に『子ども扱い』をされて不満を抱き、授業を受けて放課後になる



悠里は颯太のクラスまで彼の鞄を持ち、そして鞄を彼に渡した。


「相原くん。本当にありがとうっ。じゃあ、また部活でね」


「おう。じゃあな」


教室の前で鞄を受け取った颯太は、鞄を持っていない方の手で背が低い悠里の頭をポンポンと二度軽く叩く。

そして手を振って教室に入っていった。

悠里は颯太を見送った後、不満な顔をして口を開く。


「相原くんってさ、同じ一年生なのに私のことを子ども扱いするよね」


「今のをそう取ったの? 本当、恋愛に関しては悠里の認知はゆがんでるよね……。ほら、教室に行くよ」


「うんっ」


悠里に付き合って颯太のクラスまで来た晴菜に促され、悠里は自分たちの教室に向かった。


1年5組に到着した。

悠里と晴菜はそれぞれに自分の席に着き、学校から支給されたノートパソコンを机の上に出して通学鞄を机の横のフックに掛ける。

悠里がノートパソコンを開けると起動した。


「おはようございます。サポートAIさん」


「『高橋悠里』様の音声を確認しました。ノートパソコンの使用を許可します」


「サポートAIさんは『アルカディアオンライン』のサポートAIさんと同じAIさんなんだよね?」


「左様です」


「じゃあ、今『アルカディアオンライン』の話とかできる? たとえば私の主人公のステータス画面をパソコンの画面に表示させてくれたりとか」


「このパソコンに『アルカディアオンライン』の情報を表示させることは禁止されています」


「そうなんだ……」


サポートAIの答えを聞いて悠里はがっかりした。そして、さっき美羽のことを、彼女と仲が良い二年生のバリトンサックス奏者、篠崎萌花に伝えようとしていたことを思い出す。


「サポートAIさん。私、ちょっとスマホを使いますね」


悠里はサポートAIに断りを入れて鞄からスマホを取り出し、萌花に『佐々木先輩が具合が悪そうだったので、相原くんに保健室に運んでもらいました。時間があれば様子を見に行ってあげてください。どうぞよろしくお願いします』と記載して送信した。

そしてスマホを鞄に戻してサポートAIに向き直る。

予鈴が鳴り、担任教師が教室に入ってきた。

今日も、一日が始まる。


授業を受け、晴菜に給食と部活用のマスクケースを渡して、自分もマスクケースにマスクをしまって給食を食べ、昼休みにパラパラと英単語を記載した単語帳を見てから晴菜とお喋りをして、また授業を受ける。

各教科の先生が「この範囲は中間テストに出す可能性が高いからきちんと勉強するように」という言葉を口にするたびに悠里の心は重くなる。

時間が止まって、中間テストが永遠に来なければいいのに……。


放課後になった。

部活に行けば、要に会える。

授業中には中間テストが嫌すぎて時間が止まればいいと思った悠里は、今は部活の時間を楽しみにしながらノートパソコンの電源を切って、ノートパソコンを通学鞄にしまう。


「今日はあたしたちが音楽室を使える日だよね。コンクールの曲の練習、楽しみ」


晴菜の言葉に悠里は肯く。

音楽室は吹奏楽部と合唱部が交互で使用していて、今日は吹奏楽部が音楽室を使える日だ。

悠里は通学鞄を持って、フルートパートの三年生が昨日付けで数人、部活をやめたので一年生の晴菜がコンクールに出られることになったという話を聞きながら、晴菜と共に音楽準備室に向かった。



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