第二百八十三話 高橋悠里と晴菜は階段の踊り場でうずくまる美羽に遭遇する

悠里は自室のベッドの上で目を開けた。

無事にログアウトできたようだ。

ヘッドギアを外して起き上がる。


「めっちゃ内容が濃かった。学校が休みだったらもっとゲームで遊べたのになあ……」


愚痴を零しながら悠里はヘッドギアとゲームの電源を切り、そして、ヘッドギアとゲーム機を充電する。

そしてパジャマから制服に着替え、一階の洗面所に向かった。


洗面所で髪をポニーテールに結ってから朝食を食べ、歯磨きをして通学鞄を持って玄関へ。

祖母が悠里を見送りに来てくれた。


「悠里。気をつけていってらっしゃい」


「うん。お祖母ちゃん。行ってきますっ」


悠里は祖母に微笑んで家を出た。

幼なじみの晴菜と合流して学校に向かう。


「はるちゃん。そういえばゲームどうだったの? 窓から飛んだの?」


悠里が隣を歩く晴菜に問いかけると、晴菜は肯く。


「クソオヤジの書斎からでっかい金庫をアイテムボックスに収納して窓から飛んで、教会に死に戻ったら固有クエストが発生したよ」


「すごいっ。どんなクエスト?」


「『ウォーレン商会の新たな後継者は誰だ!?』っていうクエスト」


「ウォーレン商会の新たな後継者!? それは、息子のマーキースじゃないの?」


「あたしは商会の経営とか興味ない。お店経営SLGとかチマチマしてるの無理だし」


ウォーレン商会の会頭の息子マーキースの中の人である晴菜はきっぱりと言う。


「それでね。お兄ちゃんと相談して、金庫をぶっ壊して取り出した『ウォーレン商会の後継者になるための書類や権利書一式』を商人ギルド主催のオークションに出すことにしたのよ」


「オークション!! 滾るね……っ!!」


「今度お兄ちゃんと一緒に商人ギルドに行ってギルド登録してから、オークションのこととか確認する予定なんだ。悠里も時間が合ったら一緒に行こうよ」


「うんっ!! 行きたい……っ!!」


悠里は晴菜とゲームの話をしながら学校に到着した。

昇降口で靴を脱いで上履きに履き替え、教室に向かう。


「そういえば、放課後デートの詳しい話を聞いてなかったね」


晴菜と並んで階段を上っている悠里に晴菜が言う。


「放課後デートじゃ……っ」


そう言いかけて、悠里は階段の踊り場でうずくまる女子生徒に気づいた。

彼女に駆け寄ろうとして、躊躇する。女子生徒の通学鞄には見覚えのある『リボンねこ』のキーホルダーがついている。

……うずくまっているのは吹奏楽部の三年生、佐々木美羽だ。

晴菜もうずくまっているのが美羽だと気づいた。


「悠里。行こう」


晴菜は悠里を促す。

そして悠里に理不尽な意地悪を言う美羽がうずくまる横を通り過ぎようとした。



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