第二百八十二話 高橋悠里は5月11日分の換金をして『聖人殺しの短剣』による『転生システム』について聞いた後、新たなワールドクエストのことを知り、ログアウトする



気がつくと、悠里は転送の間にいた。

なぜか中学校の制服姿になっている。リアルでは今、パジャマ姿なのだけれど。

……学校に遅刻しないようにという意識の表れだろうか。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」


「おはようございますっ。サポートAIさん。あの、今日の分の換金をしてもいいですか? 1000円換金したいです」


「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に1000円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は6580601リズです」


「ありがとうございますっ」


悠里は今日の分の換金ができてほっとした。

ゲームに夢中になってしまうと換金を忘れてしまいそうでちょっと怖い。


「あのっ。サポートAIさん。『転生システム』のことを聞きたいんですけど……」


「『転生システム』の説明を致します。条件を満たしましたので『転生システム』の情報がプレイヤーに開示されます。開示された『転生システム』以外の方法での転生も可能です。今回開示された『転生システム』は錬金武器『聖人殺しの短剣』によるプレイヤーの主人公キャラ/聖人の殺害・自死です」


「怖……っ!!」


ゲームでは便利だから教会に『死に戻り』とかしてるけど!!

改めて『主人公キャラ/聖人の殺害・自死』とか聞くと怖い……!!


「説明を取りやめますか?」


「取りやめないでください。聞きます……」


圭がメッセージで『転生システム』を使う可能性があるということ書いていたのだから、おそらくプレイヤーにメリットがあるシステムなのだろう。

悠里も『転生システム』について知っておきたい。


「プレイヤーまたはNPCは錬金武器『聖人殺しの短剣』による致命の攻撃をすることによってプレイヤーの主人公キャラを死亡させることができます。プレイヤーの主人公キャラが死亡した場合、プレイヤーは転送の間にリープして新たな主人公キャラを選択することになります」


「ええと、質問です。『聖人殺しの短剣』は誰が持ってるの? どこで手に入るんですか?」


「錬金武器『聖人殺しの短剣』は『ヒューマンの国』リューライト王国の王都リューンの錬金術師ギルドに所属する錬金術師メイジー・ヒロノアが錬金に成功して生み出されました。Sランクの錬金術師のみが購入できる『最上級錬金術教本』に錬金武器『聖人殺しの短剣』の錬金レシピが追加されています」


「つまり、錬金術師のメイジー・ヒロノアさんか『最上級錬金術教本』を買ったSランクの錬金術師だけが『聖人殺しの短剣』を持っていたり、持つことができるっていうこと?」


「現状では、王侯貴族または資金力がある者は王都リューンの錬金術師ギルドに『聖人殺しの短剣』の作成を依頼することが可能です」


つまり、まだ港町アヴィラは安全ということだろうか。


「あの、王都リューンってどこにあるの? 港町アヴィラから遠い?」


「その質問にはお答えしかねます。ご自身でお確かめください」


「うう。サポートAIさんはゲームのネタバレに厳しい……」


「『聖人殺しの短剣』による致命の攻撃について説明いたします。『聖人殺しの短剣』で『主人公キャラ/聖人』を10分以内に5回以上攻撃(刺す/切る)すると致命の攻撃を受けたものと判定され、プレイヤーは転送の間にリープします。そこでプレイヤーは次の主人公に引き継ぐデータを選んだ後、新たな主人公キャラの選択をします」


「死んでしまった主人公キャラはどうなるの? たとえばマリーが死んだら?」


「教会で埋葬されると推測します」


「そんなのダメ!! マリーの家族が泣くよ……っ!!」


サポートAIの言葉を聞いた悠里は叫んだ。

『聖人殺しの短剣』による転生はダメだ。怖すぎるし悲しすぎる。

でも『次の主人公に引き継ぐデータ』のことは気になる。

悠里はRPGを一度クリアした後、データ引継ぎで二周目をプレイするのが好きだ。

初回プレイで頑張って集めたアイテムや武器、防具やお金を二周目のプレイで使えるのが嬉しい。


「あの、叫んだりしてごめんなさい。『次の主人公に引き継ぐデータ』のことを教えてもらえますか?」


「かしこまりました。死亡した主人公キャラの『プレイヤー善行値/プレイヤーレベル』『アイテムボックスに収納されたもの(アイテム・装備品・装飾品・武器等)/ゲーム内通貨(ステータス画面に表示されている所持金)』『スキルポイント(SP)』は引き継がれます」


「種族レベルは?」


「種族レベルを引き継ぐには1レベルごとに1万円の課金が必要になります」


「一万円っ!? 一万リズじゃなくて……っ!?」


「一万リズではなく一万円です。能力値(最大HP値・最大MP値/各能力値)を引き継ぐには項目ごとに10万円の課金が必要になります」


「『アルカディアオンライン』が本気出してお金を回収しようとしてる感じ……?」


「一部のプレイヤーから『MPが0になるたびにMP最大値が増えるとプレイヤーキャラが強くなりすぎてゲームバランスが崩壊する』等の意見があったので、この転生システムでは能力値の引継ぎを厳しくしました」


「なんでそんな余計なこと言っちゃったの? 一部のプレイヤーって誰……っ?」


「プレイヤーの個人情報は保護されます。ご了承ください。レアスキルの引継ぎは一つにつき100万円。コモンスキルの引継ぎは一つにつき5万円になります」


「100万円と5万円……っ!!」


悠里は一日ごとに1000円貯金が増えていくことを喜んでいるのに……っ。

サポートAIは説明を続ける。


「死亡した主人公が身に着けていた装備品、装飾品等はアイテムボックスに収納されていない状態なので引き継がれません」


「うう。世知辛い……」


「フレンドリストは『すべて引き継ぐ』『すべて破棄する』のどちらかを選べます。『すべて破棄する』を選んだ場合でもプレイヤー善行値の変動はありません」


「『すべて破棄する』を選んだ後に、新しい主人公で以前のフレンドと新しくフレンドになったらプレイヤー善行値が上がったりする?」


「上がります。但し、一方的にフレンド登録を破棄するプレイヤーと再度フレンドになりたいとは思わない方もいると推測します」


「確かに……」


圭は親しいフレンドにだけ『転生する』と説明してフレンドリストを『すべて破棄する』を選ぶつもりなのかもしれない。

リアフレだったら、リアルのメッセージのやり取りで説明することもできるだろう。


「NPCが『聖人殺しの短剣』を所持することにより、NPCに対して悪事を働いたプレイヤー/聖人が反撃される可能性があります。NPC善行値が低いプレイヤーは注意が必要です」


「えっ!? 私は大丈夫ですよね……っ!?」


「高橋悠里様の主人公『マリー・エドワーズ』のNPC善行値を確認します。確認中……。確認終了。現在の『マリー・エドワーズ』のNPC善行値であればNPCによる襲撃を受ける危険性は極めて低いです」


「よかった……。でもNPCに対して『悪役ロール』をしていたプレイヤーは困るかもしれないんだね」


「NPCに対する『悪役ロール』が過激すぎる一部プレイヤーに対するクレームが多く、また間接的に『悪役ロール』の悪行の被害に遭ったプレイヤーの訴えも多数あったため、このような仕様になりました」


「そうなんだ。やっぱりゲームの中でも悪いことはダメだよね……」


「これまではノーリスクで『悪役ロール』ができたのですが、今後はリスクを背負って『悪役ロール』をしていただくことになります」


「『聖人殺しの短剣』で攻撃されるリスクを背負うのは『悪役ロール』をしているプレイヤーだけじゃなくて、プレイヤー全員だけどね……」


悠里はそう言ってため息を吐いた。

『聖人殺しの短剣』を作り出した錬金術師のメイジー・ヒロノアをちょっと恨んでしまいそうだ……。


「『聖人殺しの短剣』の作成者錬金術師メイジー・ヒロノアを擁する王都リューンの錬金術師ギルドと教会勢力が敵対関係になりました。これによりワールドクエスト『魔女狩り』が発生しました。詳しくはステータス画面の『クエスト確認』をご確認いただくか、ワタシにお尋ねください」


「ワールドクエスト……!?」


気になるけれど、今確認するのはダメだ。朝ご飯を食べて学校に行かなくちゃいけない。

朝ご飯を抜いたら学校でお腹が空いてしまうし、今日貰えるGPが減ってしまう……っ。


「サポートAIさん。私、制服に着替えて朝ご飯を食べなくちゃいけないので、ゲームを終了しますね」


「高橋悠里様。お疲れさまでした」


「サポートAIさんもお疲れさまでした。ログアウト」


悠里の意識は暗転した。


***


高橋悠里の5月11日の換金額 1000円


高橋悠里の貯金額 5600円→6600円


マリー・エドワーズの現在の所持金 6580601リズ


高橋悠里のGP 4GP



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