アルカディアオンライン【高橋悠里 中学一年生・一学期終了編】
第二百七十七話 高橋悠里は『アルカディアオンライン・プロジェクト』が規定する『ヤングケアラー』について知り、星ヶ浦銀行の口座を作った思い出を振り返った後に5月10日分の換金をしてログアウトする
第二百七十七話 高橋悠里は『アルカディアオンライン・プロジェクト』が規定する『ヤングケアラー』について知り、星ヶ浦銀行の口座を作った思い出を振り返った後に5月10日分の換金をしてログアウトする
「サポートAIさん。『やんぐけあらー』ってなんですか?」
「『アルカディアオンライン・プロジェクト』が規定する『ヤングケアラー』とは『未婚で18歳以下でありながら、家庭生活における家事全般や家族の介護・世話等を担い、自分の自由になる時間が一週間に3時間未満』のプレイヤーのことです」
サポートAIの言葉に悠里は疑問を抱き、口を開く。
「自分の自由になる時間って、学校とか行ってたら皆、そんなにないと思うんだけど……」
「『ヤングケアラー』とは部活をしたり自主勉強をしたり、寄り道をしたり自分の買いたいものを買ったり、読書をしたりゲームをしたり、スポーツを楽しんだり、趣味に時間を使ったり、友達と遊んだり話したり、恋人とデートをする時間が休日を含めた一週間で3時間未満の、未婚で18歳以下プレイヤーのことです」
サポートAIの言葉を聞いて、悠里は目を丸くした。
「家族の介護・世話は大変だと思うけど、家事ってそんなに忙しいの……っ!?」
悠里の母親や祖母は、忙しく家事をしている時もあるが、読書をしたりテレビを見たり、のんびりお茶を飲んでおやつを食べたりしている。
「それは高橋悠里様の家庭において、家事労働を負担している人数が多いからだと思われます」
「そっか。お母さんとお祖母ちゃんが協力して家事をやってるから……。休日にはお父さんが買い物に行ってくれたり、たまにお祖父ちゃんがお昼ご飯を買ってきてくれたりするし……」
悠里も平日の晩ご飯の後には自分が食べた食器を洗うし、休日に家でご飯を食べた後には毎食、自分の食べた分だけは食器洗いをしている。たまに家族の分の食器も洗う。
「一人で家事を全部こなすなんて、しかも自分の分だけじゃなくて他の家族の分も負担するなんて、大変……」
しかも家事を負担している上に、家族の介護や世話もしている人もいるなんて……。
どれだけ大変な生活か悠里には想像もつかない。
「高橋悠里様の仰る通りです。だからこそ『アルカディアオンライン・プロジェクト』は『ヤングケアラー』の支援をします」
「理解しましたっ。でも、そんなに大変な人たちなら今すぐ助けてあげればいいと思うんですけど、なんで6月1日になるまでサービスを開始しないの?」
「それは星ヶ浦銀行が星ヶ浦アルカディアオンライン銀行として始動するのが6月1日だからです」
サポートAIの言葉を聞いて悠里は瞬く。
今、悠里が『アルカディアオンライン』に登録している口座が星ヶ浦銀行の口座だ。
家の斜め前に郵便局があるにも関わらず、悠里が星ヶ浦銀行の口座を作ったのは、悠里が小学校一年生の頃に星ヶ浦銀行の口座を作った祖母がオマケとして『叶い星』のキーホルダーを貰ってきたことがきっかけだった。
『叶い星』というのは星ヶ浦市の東にある『星ヶ浦』に落ちたという伝承が伝えられる星の名前だ。
祖母の『叶い星』のキーホルダーが七色に輝いて綺麗だったので悠里も同じものが欲しいと駄々をこね、そして祖母が星ヶ浦銀行に悠里の口座を作ってくれた。
悠里はその時に手に入れた『叶い星』のキーホルダーを家のカギにつけて、今も大事にしている。
「なんで、星ヶ浦銀行が星ヶ浦アルカディアオンライン銀行になることが関係してるんですか?」
悠里は首を傾げてサポートAIに問いかける。
「『ヤングケアラー』は自分の口座を持っていない可能性が高いので。『アルカディアオンライン』に口座を登録する場合に限り、本人の声紋登録と指紋登録、顔写真と両方の耳の写真を撮ることで身分証明書や印鑑等を提示することなく銀行口座を開設できる『星ヶ浦アルカディアオンライン銀行』が稼働してからの方が良いと『アルカディアオンライン・プロジェクト』は考えます。星ヶ浦アルカディアオンライン銀行を訪問することが難しい『ヤングケアラー』に対しては星ヶ浦アルカディアオンライン銀行の職員が自宅を訪問して口座の開設作業を行います」
「そうなんだ。でもなんで『アルカディアオンライン』に口座を登録する場合に限って簡単に口座を作ることができるの?」
「それはワタシが『アルカディアオンライン』に登録された星ヶ浦アルカディアオンライン銀行のすべての口座の資金の流れを24時間、365日監視し続けるからです。犯罪行為が疑われる入金/出金はワタシの権限で凍結できます」
「怖っ。でも頼もしい……のかな? 個人情報の保護とか、プライバシーの侵害とか、そういうのは大丈夫なの?」
「ワタシの監視を拒否する場合は星ヶ浦アルカディアオンライン銀行以外の銀行口座の利用をおすすめします」
星ヶ浦アルカディアオンライン銀行の口座を悪いことに使わなければ、サポートAIに監視されていても問題ない……はず。
悠里はそう考えて、気持ちを切り替える。
「お知らせはこれで終わりですか?」
「『アルカディアオンライン・プロジェクト』からのお知らせは以上です」
「えっと、じゃあ、今日の分の換金をしてもいいですか? 1000円を換金したいです」
「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に1000円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は6581601リズです」
「ありがとうございますっ」
悠里は今日の分の換金ができてほっとした。
そろそろ、祖母はお風呂から上がっただろうか。
「私、いったんリアルに戻りますね」
「高橋悠里様。お疲れさまでした」
「サポートAIさんも説明、お疲れさまでした。ログアウト」
悠里の意識は暗転した。
***
高橋悠里の5月10日の換金額 1000円
高橋悠里の貯金額 4600円→5600円
マリー・エドワーズの現在の所持金 6581601リズ
高橋悠里のGP 4GP
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます