第二百七十六話 高橋悠里は6月1日9:00より『SOS家事代行サービス』を開始する予定だと知る
「6月1日9:00より『SOS家事代行サービス』を開始する予定です。『SOS家事代行サービス』は転送の間にてワタシからの使用許可を得たプレイヤーが利用できます」
「家事代行サービスって、スタッフさんがご飯を作ってくれたり掃除をしてくれたり、洗濯をしてくれるサービスっていうことですか?」
「左様です」
「うちのお母さんが喜びそう……」
悠里の母親は専業主婦なのに家事が嫌いだ。
新型コロナが流行する前は近所のスーパーでパート勤務をしていたのだが、新型コロナに罹患して祖父母に移すことを恐れて仕事を辞めた。
いつか新型コロナがおさまったら、また母親がスーパー等で楽しく働けたらいいなと思いながら悠里は口を開いた。
「でも『SOS家事代行サービス』は『SOS』状態のプレイヤーしか使えないんですよね?」
「左様です。こちらの『SOS家事代行サービス』は『新型コロナに罹患した本人または家族』『新型コロナ患者の濃厚接触者やその家族』はご利用いただけません」
「そうなの!? すごく困ってそうなのに……っ!!」
「『SOS家事代行サービス』のスタッフの安全を確保するためです。ご了承ください」
「そうなんだ……。そうだよね。スタッフさんも新型コロナに感染したくないもんね」
「『新型コロナに罹患した本人または家族』『新型コロナ患者の濃厚接触者やその家族』ではないとワタシが判定したプレイヤーの中で『未婚・シングル・パートナーが病気や怪我、精神疾患で家事を担えず一人で家事労働を担当している』方がサービスを利用できる対象となります」
「よくわからないです……」
「父親が病弱で働けず、母親がパート勤務で家計を支えている家庭で家事を担っている18歳以下のプレイヤーの場合は『SOS家事代行サービス』を利用できます」
「そうなんだ。じゃあ、夫婦共働きでものすごく忙しくて『誰かに家事をやってほしい!!』というプレイヤーはサービスを利用できないの?」
「できません。夫婦共に健康である場合は、家電の力等を借りて頑張って乗り切っていただくことを願います」
「そっか……」
「『SOS家事代行サービス』を利用するためには事前のPCR検査での本人や家族全員の陰性証明が必要です。PCR検査は『アルカディアオンライン・プロジェクト』の医療スタッフが各家庭を訪問して実施します。陰性が証明された場合はその翌日か翌々日に『SOS家事代行サービス』のスタッフが家事代行サービスを行います」
「PCR検査の代金はプレイヤーが払わなくちゃいけないの?」
「PCR検査の代金や医療スタッフの報酬は『アルカディアオンライン・プロジェクト』が負担いたします」
「そうなんだ」
それなら無料でPCR検査をしてもらえてお得かもしれない。
「家事代行サービススタッフは、プレイヤーが仕事や学校に行く場合はプレイヤーが出かける1時間前にプレイヤーの自宅に到着し、『アルカディアオンライン・プロジェクト』が用意したノートパソコンでプレイヤーの声紋認証による本人確認をしてから、家事代行サービスを行う場所にホームカメラを設置。その後、ホームカメラの映像を確認するためのスマホをプレイヤーに渡して実際に画像を確認してもらいます。その上でプレイヤーから家の鍵を預かります。鍵を預けることをプレイヤーが拒否した場合は食材等の買い出しができず、一部の家事の代行が不可となります。『SOS家事代行サービス』のスタッフを装った詐欺行為には十分にご注意ください」
「詐欺とか怖い……」
家に帰ったら綺麗な部屋とおいしいご飯が待っていると思ったのに、現金や貴重品が根こそぎ盗まれているとか怖すぎる。
悠里はおそろしい想像を振り払いながら、口を開いた。
「依頼したプレイヤーが仕事や学校に行かない日は、スタッフさんはいつ来てくれるの?」
悠里は首を傾げて問いかける。
「8:00を予定しています」
「そうなんだ。朝早いね」
休日の高橋家の朝食は7:00から8:00の間であることが多い。ご飯を作ってくれる祖母か母親の気分で朝食の時間が決まる。
でも、休日は9:00や10:00まで寝ている人も多いのではないだろうか。
「基本的にプレイヤーが外出してから帰宅するまで/在宅している場合は17:00までが勤務時間になります。家事代行サービスの内容は指定できません」
「プレイヤーがやってほしいことをお願いするのはダメっていうこと?」
「左様です。家事代行サービススタッフの能力の範囲内で、家事代行サービススタッフが必要だと思った家事の代行をします。基本的にはキッチンの洗い物を片づけてプレイヤー本人または家族の食事を作り、リビングやダイニング等生活空間の掃除をして洗濯をします」
「ご飯を作る食材は? そのおうちの冷蔵庫のものを使うの?」
「掃除道具や洗濯用洗剤等は家事代行サービススタッフが持っていきます。食材や調味料に関しては家事代行サービススタッフの裁量で買い物に行き、食事の用意をします。買い物の代金は『アルカディアオンライン・プロジェクト』が負担いたします」
「そっか。じゃあプレイヤーのおうちの食材や洗剤が減ることはないんだね」
「左様です。但し、冷蔵庫や冷凍庫の中身を使った方が良いと家事代行サービススタッフが判断した場合は使用する場合があります」
「そうなんだ。仕事や学校に行ったプレイヤーがおうちに帰ってきた時に、部屋が綺麗になっていて、おいしいご飯が用意されていたらきっと嬉しいよね」
「そうですね。プレイヤーに嬉しい気持ちになって頂けるように、家事代行サービススタッフはつとめます」
「お金はいくらかかるの? ゲーム内通貨で払える?」
「『SOS家事代行サービス』は初回無料、二回目以降は1回につき10000リズ/10000円です。但し『アルカディアオンライン・プロジェクト』が規定した『ヤングケアラー』は一か月ごとに1回無料でサービスを利用できます」
「やんぐけあらー?」
悠里は聞き覚えのない言葉に、首を傾げた。
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