第二百七十二話 高橋悠里はノートパソコンを充電し、英単語を単語カードに書き写そうとした時にスマホが鳴る
悠里は祖母が用意してくれたミートソースのパスタとサラダを食べ終えて、食器を洗い、それから洗面所に行って歯を磨く。
その後で玄関に行き、靴箱の上に置いてあった悠里宛ての段ボール箱を持って自室に向かった。
自室に入り、電気をつけて、段ボール箱からACアダプターを出す。
空の段ボール箱は……玄関の靴箱の上に置いておこう。
きっと祖父か父親が片づけてくれるはずだ。
悠里は空の段ボール箱を持って一階の玄関に向かい、空箱を靴箱の上に置く。
それから自室に戻り、通学鞄からノートパソコンを出して充電した。
『アルカディアオンライン』をプレイしたいという誘惑を振り切り、悠里は要と色違いのお揃いの単語帳を鞄から取り出す。
そして、英語の教科書、ペンとスマホを用意して机に向かった。
「よしっ。頑張ろう……っ」
悠里が気合を入れたその直後、スマホが鳴った。
晴菜からの直電だ。
悠里はスマホをタップして口を開く。
「はるちゃん? どうしたの?」
「悠里。今、時間ある? 話、長くなるかもしれないんだけどいい?」
「うん。いいよ。もう晩ご飯も食べ終わったし」
今から、単語カードに英単語を書き写そうとしていたけれど、それよりも晴菜の話を聞く方が大事だ。
「あたし今日、相原と帰ることになったでしょ。その話をしたいの」
「そうなんだっ。どうだった? はるちゃん、楽しかった?」
悠里は今日、アクシデントはあったけれど、要とずっと一緒にいられて嬉しかったし楽しかったので、晴菜も颯太と楽しい時間を過ごしてくれていたらいいなと思いながら尋ねる。
「全然楽しくなかった。っていうか、なんであたしと相原を一緒に帰らせようと思ったの?」
「えっ? えーっと、それはちょっと……秘密」
晴菜に問いかけられた悠里は、曖昧に笑って言う。
颯太はおそらく緊張して、会話が弾まなかったのだろうと悠里は思った。
好きな人……憧れの人との会話でものすごく緊張する気持ちはすごくよくわかる。
「面倒くさいからはっきり聞くけど、悠里は相原があたしのことを好きだと思ってるの?」
「えっ!? えっと、うーん……どうかなあ……?」
「相原が好きなのはあたしじゃないからね」
「嘘っ!? そうなの……っ!?」
「やっぱり、悠里は相原があたしのことを好きだと思ってたんだね……」
「……だって、相原くん、はるちゃんが美人だってすごく褒めてたし」
悠里はしゅんとして言う。晴菜のため息が聞こえた。
「あのね。あたしが美人なのは単なる事実だから。『今日はいい天気だね』くらいに意味ない言葉だからね」
「そうなの……?」
「そうなの。だから今後は相原とあたしを一緒に帰らせようとしないでね。悠里が藤ヶ谷先輩と放課後デートする時は、ひとりで帰るから」
「放課後デート!? 違うもんっ。ただの寄り道だよ……っ」
悠里は顔を赤くして晴菜の言葉を否定した。……期待して、傷つくのは怖い。
「でも楽しかったんでしょ? 藤ヶ谷先輩との寄り道」
「……うん」
「よかったね。悠里」
「うん。気にかけてくれてありがとう。はるちゃん。……あー。勘違いしたこと、相原くんに謝らないとだよねえ。はるちゃんにも迷惑をかけてごめんね」
「あたしは別にいいけど、相原は……。悠里が謝るとあいつの傷口に塩を塗るような気がするから謝らなくていいと思う」
「そう?」
「うん。……あたしとしては、藤ヶ谷先輩と悠里にうまくいってほしいから、あんまり相原に近づいてほしくないんだよね」
「えっ? どういう意味?」
「悠里はわからなくていいよ。理解したらたぶんパニくるだろうし」
「はるちゃんがそう言うなら聞かないけど……。あっ。そうだ。今、圭くんいる? 圭くんと話せなさそうならメッセージ送るけど……」
「緊急の用事?」
「緊急っていうわけじゃないけど、トラブルの報告……みたいな?」
「トラブル? なにがあったの?」
悠里は迷った末に晴菜に事情を話すことにした。
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