第二百七十一話 高橋悠里は帰宅し、祖母にパスタを茹でて貰っている間、母親とノートパソコンのACアダプターについて話す
要に家まで送ってもらった悠里はお礼を言って彼を見送り、家に入った。
「ただいま」
悠里はそう言って鞄を玄関に置き、靴を脱ぐ。
悠里が帰宅したことに気づいた祖母がダイニングから現れた。
「おかえりなさい。悠里。遅かったのね」
「うん。ちょっと寄り道をしていたの。あのね。私、今日、単語帳を買って来たんだよ」
「そうなの? 偉いわね。お金を使ったのなら、お小遣いをあげましょうか? お母さんには内緒でね」
「お祖母ちゃん。大丈夫だよ。私、ゲームで貯金が増えたからちょっとだけお金持ちなの」
『アルカディアオンライン』で貯金が4600円増えたことが悠里の心の余裕につながっている。
一日ごとにゲームで換金をすれば、その分だけ貯金が増える。『アルカディアオンライン』は素晴らしいゲームだ。
「ゲームって、お金が増えるのね。最近のゲームはすごいのねえ」
「この前、お祖母ちゃんも申し込んだ『アルカディアオンライン』っていうゲームだよ」
「ああ。デパートの物産展のような催しがあるゲームね」
祖母の言葉を聞いた悠里は曖昧に笑いながら、玄関に置いた鞄を手にした。
悠里が知る限り『アルカディアオンライン』では物産展は行われていないはずだ。だが『アルカディアオンライン』で物産展が今後行われる可能性はある。
そう。未来は誰にもわからない。……悠里は『アルカディアオンライン』のサポートAIに『物産展を開いてほしい』とお願いしてみようと思った。
悠里は鞄を二階の自室に置き、マスクをゴミ箱に捨ててから一階に戻り、洗面所で手洗いとうがいをしてから再び自室に向かう。
自室で制服を脱いで部屋着に着替えて一階のダイニングへ。
ダイニングには母親と祖母がいた。
祖父と父親の姿は無い。玄関に父親の靴がなかったので、まだ仕事をしていて家に帰っていないのだろうと悠里は思う。
母親と祖母の前にはミートソースで汚れた皿があり、祖父の席には汚れた皿が置きっぱなしになっている。
今日の晩ご飯はおそらくミートソースのパスタだろう。
「悠里。遅くなるなら連絡しなさいよ。心配するでしょう?」
口では心配すると言っているけれど母親は悠里を玄関まで出迎えることなく、ダイニングで緑茶を飲んでいる。
本当に心配していたのだろうかと疑いながら、悠里は口を開いた。
「これから気をつけるね」
母親はご飯を作ってくれる存在なので、逆らっても何も良いことはない。
高橋家のカーストの最上位に君臨しているのはおいしいご飯を作ってくれる祖母で、二番目は文句を言いながらご飯を作ってくれる母親だ。
でも、祖母は祖父を立てて尊重するので、見方によっては祖父がカーストの最上位に存在しているといえるかもしれない。
「悠里。今、パスタを茹でるから座って待っていて」
祖母が席を立って言う。
「ありがとう。お祖母ちゃん」
悠里は祖母の言葉に甘えて、自分の席につく。
母親が持っていた湯飲みをテーブルに置いて悠里に視線を向けた。
「そういえば、中学校から悠里宛てに荷物が届いたのよ。先生から何か聞いてる?」
「あっ。それ、たぶん今日学校で全校生徒に配られたノートパソコンのACアダプターだと思う」
学校でノートパソコンを起動した時にサポートAIが『ノートパソコンに対応しているACアダプターは各生徒の住居に郵送済みです』と言っていた。
「ノートパソコンを貰ったの? すごいのね。まさか、後で各家庭に代金を払えとか言わないわよね?」
「たぶんそれはないと思う。あのね、ノートパソコンは『星ヶ浦アルカディアオンライン銀行』になることを記念して『アルカディアオンライン・プロジェクト』が星ヶ浦市内にある小学校・中学校・高校の全生徒と全教員に寄贈したものなんだって」
「へえ。そうなの。『アルカディアオンライン』って相当お金を稼いでいるのね。すごいわね」
「ACアダプターはどこにあるの? まだ箱から出してないんでしょ?」
「もちろん。よくわからない荷物を開封したりしないわよ。箱は玄関の靴箱の上に置いてあるわ」
「そうなんだ。靴箱の上に箱が置いてあるって、帰ってきた時には気づかなかった。晩ご飯を食べたらACアダプターが入った箱を自分の部屋に持っていくね」
学校から持ち帰ったノートパソコンを充電しておきたい。
「でも、学校でノートパソコンを用意してくれるのなら、悠里にノートパソコンを買う必要はなかったかもしれないわねえ」
母親の言葉を聞いて悠里は口を開いた。
「学校で貰った……借りたノートパソコンはリモート授業以外ではネットが使えないし、友達とメッセージのやり取りもできないし、中学を卒業したら学校に返さないといけないの」
「そうなの。地味に不便ね」
「でも、三年生までの教科書と参考書のデータがダウンロードされているんだよ」
「それは素晴らしいわね。参考書を買わなくていいなんて家計に優しくて嬉しいわ」
母親との雑談を終えた悠里は麦茶を飲むために席を立ち、冷蔵庫へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます