第二百四十二話 マリー・エドワーズは代理で列に並ぶ役目を終え、列を離れようとして名前を呼ばれる



マリーが、マリーを崇め奉ろうとするローラをなんとか宥めているとイヴが現れた。


「マリー。さっきすごく騒がしかったけど、何かあったの?」


「なんにもないです……」


イヴの言葉にマリーは力なく首を横に振る。

マリーが疲れた様子であることを見て取ったプレイヤーたちは騒ぎ立てるのをやめた。

善意や好意からの言動でも、相手に迷惑をかけると自分のプレイヤー善行値が下がってしまう。


「あなた、マリー・エドワーズ様と親しいの?」


ローラがイヴに話しかけて問いかける。


「親しいよ。マリーとあたしは友達で、フレンドなの。一緒にパーティーを組んで戦ったこともあるよ」


イヴのぐいぐい距離を詰めてくるこの感じが、今のマリーには頼もしい。

できればイヴと一緒にこの列から離れたい。ローラにフルネーム・様付けで呼ばれるたびに、マリーの中で何かがごっそりと削られていくような気がする……。

マリーはレモンイエローのドレスを着ている少女が一秒でも早く大広間に戻ってくるように、目を閉じ、胸の前で両手を組んで祈った。


「ねえ。マリー。マリーが気にしてたのってレモンイエローのドレスを着たNPCじゃなかった? 今、大広間に入ってきたよ」


「本当!?」


イヴの言葉を聞いたマリーは目を開け、胸の前で組んでいた両手を解いて大広間の扉に視線を向けた。

マリーに代理で列に並ぶように頼んだ少女は早足でマリーの元に戻ってくる。

列を離れる時に持っていたグラスは、今は持っていない。給仕に渡したか、テーブルに置いたのかもしれない。

レモンイエローのドレスを着ている少女はマリーの前に立ち、晴れやかな笑顔を浮かべて口を開く。


「私の代わりに列に並んでいてくれてありがとう。何かお礼をしたいから、あなたの名前を教えてくれない?」


「名乗るほどの者ではありません……っ」


マリーは深く考えもせずにローラとフレンド登録をしてうっかりフルネームを知られ、ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』を創造したことがバレてローラに崇められたことがトラウマになっていた。


もう二度と、よく知らない人にフルネームで自己紹介をしたりはしない。フレンド登録をするのはお互いを知った後にしよう。

そして一秒でも早くこの場から立ち去りたい。ローラから離れ、おいしいお菓子と料理を食べて、パーティー終了時間までのんびりと過ごしたい。


「マリーさん?」


だが、列を離れようとしたマリーを呼び止めた声が、マリーを平穏から遠ざけることになる……。



***


マリー・エドワーズはコモンスキル『祈り』レベル0を習得した。


若葉月25日 真夜中(6時21分)=5月9日 22:21



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