第二百四十話 マリー・エドワーズはレモンイエローのドレスを着ている少女の代わりに列に並ぶ
招待客が並ぶ列の最後尾から、イヴと連れ立ってアーシャの元に向かって歩いていたマリーは、ふと、列の中に困ったような泣きそうな顔をしている少女がいることに気がついた。
年齢は15歳くらいで、髪をきちんと編み上げてレモンイエローのドレスを着ている。
少女は左腕に腕輪をしておらず、右手にほとんど空になったグラスを持っていた。
「イヴさん。レモンイエローのドレスを着ているあのお姉さんって、なにか困ってるみたいじゃない?」
少女はマリーが持っていたお菓子の皿から、クッキーとチョコレートを選んで嬉しそうにお礼を言ってくれたから、困っている様子が気になるのかもしれない。
マリーの言葉を聞いたイヴはレモンイエローのドレスを着ている少女に視線を向けたが、興味がなさそうに首を傾げた。
「あれってNPCキャラでしょ? 左腕に腕輪してないし。別に気にしなくていいんじゃない?」
イヴはNPCキャラには興味がないようだ。……でも、マリーはどうしても少女が気になる。
「私、やっぱりちょっと話を聞いてくる。イヴさんは先にアーシャさんのところに行っていて」
「わかった。そうするね。マリーも後から合流してね」
「うんっ」
マリーはイヴと別れてレモンイエローのドレスを着ている少女に歩み寄る。
「あのっ」
マリーは困ったような泣きそうな顔をしているレモンイエローのドレスを着ている少女に声を掛けた。
「あなたは、さっきお菓子をくれた子……?」
「はいっ。えっと、お姉さんがすごく困ってるように見えるんですけど、私に何かお手伝いできることってありますか?」
マリーの申し出に少女は少しためらった後、小さく肯いた。
「あのね。私が戻るまで、列に並んでいて欲しいの。頼める……?」
マリーは恥ずかしそうに言う少女と、彼女の右手にあるほとんど空になったグラスを見て事情を察した。
『アルカディアオンライン』ではプレイヤーには排せつ等がないが、NPCはトイレに行く仕様になっている。
NPCの彼女はきっと、トイレに行きたくなってしまったのだろう。
飲み物を飲んだり、緊張したりするとトイレに行きたくなってしまう気持ちは痛いほどわかる。
心情的にはすぐにでも肯きたかったが、マリーの一存で決めることはできない。
マリーはそう思いながら口を開いた。
「えっと、後ろに並んでいるお姉さんに私が代わりに並んでいいか聞いてみますね」
マリーはそう言って、レモンイエローのドレスを着ている少女の後ろに並んでいる女性に視線を向けた。
マリーと少女の話を聞いていた女性はマリーが口を開く前に微笑んで肯く。
女性の左腕には腕輪がある。プレイヤーだ。
「わたしはお嬢ちゃんが代役で並んでも構わないわよ。お嬢ちゃんはさっき、お菓子を配ってくれたでしょ? おいしかったし、嬉しかったから」
女性はそう言って自分の背後に並んでいる少女を見た。彼女の左腕にも腕輪がある。プレイヤーだ。
「ねえ。代理で並んでもらってもいいわよね?」
「私も別にいいよ。幼女ちゃんがお菓子を配ってくれたおかげで給仕の人が飲み物とか料理とか持ってきてくれるようになって嬉しかったし」
「ありがとうございますっ。お姉さんたち。じゃあ、私が代役で並びますね」
マリーはそう言って、心配そうにマリーを見つめていたレモンイエローのドレスを着ている少女に肯いて彼女の後ろに並んだ。
マリーと入れ替わって列を離れた少女は早足で大広間の扉へと歩いていく。
「あの子、お手洗いに行きたかったのかな」
「NPCは大変よねえ。その点、プレイヤーはどんなに飲んでも食べてもトイレに行かなくていいから便利ね」
少女の代役で列に並び、マリーの後ろに並んでいる女性プレイヤーたちの雑談を聞きながら、マリーはステータス画面を出現させる。
そしてイヴとアーシャ、テーブルでお菓子を食べているであろうクレムに『列を離れた女の子の代わりに、列に並んでいるから合流するのが遅くなるかも』とメッセージを送信した。
***
若葉月25日 真夜中(6時03分)=5月9日 22:03
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます