第二百三十九話 マリー・エドワーズは列に並んだ招待客にお菓子を配り歩く
マリーとイヴはRPGのお城にある王様の椅子のようなものに座っているフレデリック・レーンに謁見するための長い列の最後尾に到着した。
アーシャは今、列のどの辺りにいるだろう?
マリーと両手にお菓子の皿を持ったイヴはアーシャの姿を探しながら、ゆっくりと列に平行して歩く。
「イヴ!! マリーちゃん!!」
アーシャが名前を呼ぶ声が聞こえて、マリーは視線をめぐらせた。
列から右手が飛び出して、ひらひらと振られている。
おそらく、手を振っているのはアーシャだろう。
マリーとイヴは列から飛び出している手を目指して歩いた。
「アーシャさん……っ」
「お疲れ。お菓子を持ってきたよ」
マリーとイヴは列に並んでいるアーシャを見つけて歩み寄る。
「二人ともありがとうーっ!! 列に並びながら、テーブルにある料理とかお菓子がめっちゃおいしそうだと思って眺めてたの……っ!!」
アーシャはお礼を言いながらイヴからお菓子の皿を一皿受け取る。
マリーはアーシャが喜んでくれてよかったと嬉しく思った後、アーシャの前後に並んでいる女の子たちが幸せそうにお菓子を食べているアーシャを羨ましそうに見ていることに気づいた。
「アーシャさん。イヴさん。あのね。お菓子のもう一皿、私がこの列に並んでいるお姉さんたちに配ってもいい?」
「あたしはいいよ。アーシャは?」
「ウチだけお菓子を食べているのもなんか申し訳ないから、マリーちゃんがお菓子を配ってくれるなら嬉しいな」
「じゃあ、私がお菓子を配るね」
「よろしく。マリー」
イヴは自分が持っていたお菓子の皿をマリーに渡してアーシャに視線を向け、口を開く。
「じゃあ、あたしはアーシャのために料理を持ってきてあげるよ。アーシャ。なに食べたい?」
「お肉!!」
「了解。じゃあ行ってくるね」
イヴは颯爽と肉料理があるテーブルに向かう。
マリーは少し考えて、アーシャの後ろに並んでいる女性たちにお菓子を配ることにした。
接客スキルの経験値が少しでも増えるといいなあと思いながら、マリーはお菓子が盛られたお皿を持って微笑みながらゆっくりと列の最後尾に向かって歩き出す。
「列に並んでいる方。お菓子、お菓子はいかがですか? もちろん無料。ひとりにつき二つまででお願いしますっ。お菓子を食べたい人は、お手数ですが手を上げてくださいー」
マリーがそう言うと、マリーの声が届いた招待客たちは全員手をあげた。
「幼女がお菓子を配るの……っ!? お菓子、食べたい!!」
「あの子可愛いね。ワンピースドレスが似合ってる」
「あの子も招待状を貰えたなんて。フレデリック・レーンって実は幼女趣味なの……?」
「この前、馬車に乗ってた子じゃない……? 白い子犬と一緒にいた子」
プレイヤーとNPC招待客が一斉に話し出す。マリーはアーシャのすぐ後ろに並び、手をあげている女性にお菓子が盛られた皿を差し出した。
アーシャのすぐ前に並んでいた少女は、マリーが最後尾に向かっていくことを知ってがっかりした。だが文句をかみ殺してため息を吐き、前を向く。
マリーが列に並んでいる招待客にお菓子を配り歩いていることに気づいた給仕の一人が、列に並んでいる招待客に飲み物を配り始めた。
マリーが列に並んでいる最後尾の招待客にお菓子を配り終えたその時、アーシャのために料理を盛った皿を右手に持ち、ナイフとフォークを乗せた皿を左手に持ったイヴが戻ってきた。
「マリー。お菓子を配り終えたの?」
「うん。お菓子を2個ずつ配ってたんだけど、最終的にお菓子が4個残ったから、最後尾の人にお菓子を4個あげてお皿を空にしたよ」
無料・善意で配ったお菓子なので、個数がバラバラになったとしてもクレームは受け付けない。
「給仕の人が列に並んでる人たちに飲み物とかお菓子を配り始めたから、私がお菓子を配れなかったアーシャさんより前に並んでいた人たちにも行き渡ってると思う」
「そうなんだ。じゃあ、マリーのお菓子配りは終わりにしてもいいんだね」
「うん。アーシャさんのところに行こう」
マリーとイヴは連れ立ってアーシャの元に向かった。
***
マリー・エドワーズの接客スキル経験値が上昇。
接客 レベル1(35/100)
若葉月25日 夜(5時57分)=5月9日 21:57
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