第二百三十六話 マリー・エドワーズはクレムがワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』を受注できた理由を知る



マリーが集中して『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』のクエスト内容を確認していると、両手にレモネードが入ったグラスを持ったイヴが戻ってきた。


「レモネードを持ってきたよ」


イヴはそう言いながら、左手に持っているグラスをクレムに差し出す。

クレムはイヴからグラスを受け取って首を傾げた。


「れもねーど? なにそれ?」


「レモンの果汁に蜂蜜とかを混ぜて、水とかで割ったものだと思う。あたしもあんまり飲んだことないんだけど、給仕の人がちょうど配ってたからたまには飲んでみてもいいかなと思って。もしかしてレモンとか苦手だった?」


「蜂蜜が入ってるなら甘いだろ? たぶんいける」


クレムはそう言って、グラスに入ったレモネードを一口飲んだ。

そして顔を綻ばせ、口を開く。


「結構うまいよ。れもねーど」


「そう? よかった。ところでマリーは虚空を睨みつけてるけどステータス確認とかしてるの?」


「『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』のクエスト内容を確認中。男主人公のオレがこのパーティー会場にいる理由を推理してる」


「ふうん」


イヴは自分の分のレモネードが入ったグラスをテーブルの上に置き、赤色のグラスマーカーがついたグラスに少し残っていたオレンジジュースを飲み干すと、赤色のグラスマーカーを自分のレモネードのグラスに付け替えた。

グラスマーカーがなくなった空のグラスを、給仕が素早く回収していく。

クレムは自分のレモネードのグラスをテーブルに置いて、山盛りのお菓子を次々と自分の口に放り込んだ。口いっぱいにお菓子を詰め込み、クレムの頬が膨らむ。


「クエスト内容を何回読んでもクレムがここにいる理由がわかんないーっ!! クローズ!!」


マリーは画面を消してクレムを上目遣いで見つめる。


「降参します。教えてください。なんでクレムはパーティーに参加できたの……?」


「ふぉれはふぉれふぁ」


「クレム。口の中のお菓子を飲み込んでから話しなよ」


口いっぱいにお菓子を詰め込んだまま話し出すクレムに、自分のレモネードを手に持ったイヴが呆れたように言う。

クレムは口の中のお菓子を飲み込んで口を開いた。


「クエスト内容に『クエストを受注できるのは主人公の性別が女性または『オトメの心』スキル所持者のみである』って書いてあっただろ?」


「うん」


「だからスキル取ったんだよ。オレ。『オトメの心』ってやつ」


「そうなんだ。『オトメの心』ってどんなスキルなの?」


クレムの言葉を聞いたマリーが問いかけると、クレムは口を開いた。


「なんか、家事系スキルのスキル経験値が上がりやすくなるらしい。オレ、このワールドクエストを受注して、パーティーで豪華な料理とか食べまくってみたかったのに『女子キャラ限定クエスト』っぽくてがっかりしたんだ。それで転送の間でサポートAIに愚痴ったら男主人公でも『オトメの心』スキルがあればクエストを受けられるって教えてくれた」


「男主人公で『オトメの心』」


クレムの言葉を聞いたマリーが思わず呟き、マリーの呟きを拾ったイヴが言葉を紡ぐ。


「それってオネエ……」


「イヴさんっ。それ以上言っちゃダメっ」


マリーは素早くイヴを制止した。

『オトメの心』を所持したクレムは今後『オトメ=乙女』として扱われてしまうのではないだろうかという不安がこみ上げたが、マリーはあえてその不安をスルーした。

これはゲームだ。自由に楽しくのびのびと、好きなように遊べばいいのだ。


***


若葉月25日 夜(5時27分)=5月9日 21:27



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