第二百三十二話 マリー・エドワーズは背の高いテーブルを見上げ、グラスマーカーをつけてもらう
給仕はマリーとイヴの二人分、二皿に『水玉豚のローストポーク』に取り分けてくれた。
「食事をする際にお使い頂けるテーブルにご案内しても宜しいですか?」
「お願いします」
今度こそは淑女っぽい所作を心がけようと思いながら、マリーは上品な令嬢に見えるように微笑んだ。
マリーの『淑女の嗜み』スキルよ。仕事の時間だ……!!
給仕はマリーに恭しく一礼して、マリーとイヴの分のローストポークの皿を片手ずつ一皿ずつ持ち、歩き出す。
「マリー!! オレンジジュースを貰って来たよっ!!」
飲み物を取りに行ったイヴが、両手に一つずつグラスを持ってマリーに合流した。
「ありがとう。イヴさん」
マリーはイヴからオレンジジュースが入ったグラスを受け取る。
でも、歩きながら飲むことはしない。歩き飲み、それは淑女っぽくないからだ。
そう考えると、立食パーティーで立ち食いをするというのも淑女っぽくない……?
マリーが思考の迷路の嵌まりかけたその時、前を歩いていた給仕が足を止めた。
「料理をこちらのテーブルに置かせていただいても……」
オレンジジュースを片手に背の高いテーブルを見上げているマリーを見て、給仕は手にしたローストポークを取り分けた皿をどう扱えばいいのか戸惑う。
テーブルは、大人の招待客が立食をしやすいように背が高い仕様になっていて、子どものマリーには手が届かない……。
そもそもこのパーティーは『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』だ。
幼女の手が届くテーブルがパーティー会場にある方がおかしい。
「あっ。お皿はそのテーブルに置いちゃってください。マリーの分はあたしが取るので」
「かしこまりました」
イヴの言葉に給仕がほっとしたような笑みをこぼして会釈し、ローストポークを取り分けた皿をテーブルに置いた。
すかさず別の給仕がローストポークが乗った皿の隣に布ナプキンを置き、その上に銀色のナイフとフォークを置く。
流れるような動作を見て、マリーは思わず拍手したくなったが、片手にオレンジジュースが入ったグラスを持っていたので拍手はしなかった。
給仕たちはマリーとイヴに一礼して、他の招待客への給仕をするために立ち去る。
「マリー。ローストビーフ……じゃなくてローストポーク食べるでしょ?」
「うんっ」
「オレンジジュースのグラスを貸して。テーブルに置くから」
「お願いします」
マリーはイヴに自分のオレンジジュースが入ったグラスを手渡した。
イヴがマリーと自分の分のオレンジジュースのグラスを並べて置く。
マリーのグラスは右側に置かれたと思う。まだ口をつけていないので、取り違えても問題ないだろう。
マリーが二つ並んだオレンジジュースのグラスを見ながらそう考えていると、さっきの二人の給仕とは別の給仕がテーブルに現れた。
「お嬢様方。グラスにグラスマーカーをお付けしてもよろしいですか?」
「ぐらすまーかー?」
聞きなれない言葉に、マリーは首を傾げた。
「パーティーとかで他の人のグラスと取り違えないようにする目印みたいなものだったと思うけど……」
マリーの疑問に答えたイヴは自分の言ったことが正解かどうか問うように給仕に視線を向ける。
給仕はイヴに微笑んで肯いた。
「ぐらすまーかー、つけてほしいですっ」
「あたしのグラスにもつけてください」
「かしこまりました。お嬢様方」
給仕はマリーとイヴに一礼して、リング型のグラスマーカーをそれぞれにグラスにつけた。
マリーは青色で、イヴは赤色だ。はっきりと違う色なので、これで間違えることはないだろう。
「お嬢様方の衣装のお色に合わせたグラスマーカーに致しましたが、こちらで宜しいでしょうか?」
「よろしいですっ。ありがとうございます」
「うん。あたしも赤でいいです」
マリーは給仕に頭を下げ、イヴは微笑んで肯く。
「他に、何かお手伝いすることはありますか?」
給仕に問いかけられたマリーとイヴは揃って首を横に振る。
給仕は一礼して立ち去った。
***
若葉月25日 夕方(4時59分)=5月9日 20:59
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