第二百三十一話 マリー・エドワーズは大広間で水玉豚のローストポークを取り分けてもらう



大広間にはシャンデリアが輝き、色とりどりのドレスやワンピース、ワンピースドレスやローブを着た女性たちが談笑している。人が多いと感じるが、人がひしめいている印象はない。

ゆったりとした広い空間で飲み物を片手にお喋りを楽しんでいるプレイヤーやNPCの姿がある。

大広間を囲むように置かれたテーブルには様々な料理やお菓子等が置かれていてマリーの目は輝いた。


料理を置くテーブルの他に、立食で料理を食べる時に皿を置くテーブルもあり、そのテーブルでは青色のローブを着た小柄な少女が一心不乱に山盛りの料理を食べている。


「ん……?」


青色のローブを着た小柄な少女の姿に見覚えがある気がしてマリーは目をすがめた。だが目に入るのは後ろ姿なので気のせいかもしれない。


「あたし、お肉を食べに行こうっと。マリーも行くでしょ?」


「うんっ。アーシャさんはどうする?」


「ウチはフレデリック様に謁見するっ」


アーシャの視線の先にはRPGのお城にある王様の椅子のようなものに座っているフレデリック・レーンの姿があった。レーン卿の前には、彼と会い、話すべく女性たちが一列に並んでいる。

悠里は話に聞いたことしかないが、アイドルの握手会に並ぶファンの列はこんな感じなのだろうか。


「遊園地のアトラクションで遊ぶために並ぶ列みたい。それか行列ができるラーメン店でよく見る長い列」


呆れたように言うイヴの言葉を聞いたマリーは思わず吹き出した。


「そうだよね。笑っちゃうよね」


「イヴさん。私は列を笑ったんじゃなくてレーン卿とラーメン屋の取り合わせが意外過ぎて笑っちゃったんだよ……っ」


「はいはい。そういうことにしておくから」


マリーの言葉を軽く流して、イヴはローストビーフっぽい肉料理が並んだテーブルに向かう。

食べ放題では、まずは肉。それがイヴのポリシーだ。


「私、5歳じゃなくてユリエル様がいなかったらあの列に絶対並んでたからね……っ」


長い足でスタスタと歩いていくイヴを小走りで追いかけながらマリーが言うと、イヴは足を止めてマリーを振り返る。


「なにそれ詳しく」


「えっ!?」


「ユリエル様って誰……っ!?」


「イヴさんっ。ローストビーフっぽい料理、食べよう……っ」


マリーは精神的に追い込まれると口が滑ってしまう癖をなんとかしようと心に誓う。


「えーっ!? 恋バナしようよー」


「私のことを聞きたいなら、まずはイヴさんのことを話してください」


マリーはそう言いながらローストビーフっぽい料理が盛られた大皿の前に立つ。

……立ったのはいいけれど、どうやって食べるの?

マリーが料理を取り分ける小皿のようなものを探して視線をさ迷わせていると、給仕がマリーに歩み寄り声を掛けてくれた。


「お嬢様。料理を取り分けさせていただいても宜しいですか?」


お嬢様って言われた……!! 嬉しい!!

マリーは淑女っぽさを意識しながら気取って一礼し、口を開く。


「このローストビーフっぽいお肉をお願いします」


『ローストビーフっぽいお肉』と言っている時点で淑女の感じはゼロだが、マリー自身は気づいていない。


「あたしもっ。あたしの分もローストビーフっぽいお肉をお願いしますっ」


「こちらの『水玉豚のローストポーク』でございますね。ただいまお取り分けを致します」


ローストビーフじゃなかった……!!

水玉豚とか知らないんですけど……!!


「あっ。あっちで飲み物を配ってるみたい。あたし、取ってくるねっ。マリーの分も取ってくるからここでローストポークのお皿を死守しててね……っ」


イヴはさらりと『ローストポーク』と言い直し、飲み物が入ったグラスを配っている給仕のところに走っていく。


マリーは今、ローストポークを取り分けている給仕がマリーの『ローストビーフっぽいお肉』という発言を一秒でも早く忘れてくれたらいいなあと願いながら、顔を赤くして俯いた。


***


若葉月25日 夕方(4時47分)=5月9日 20:47



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