第二百三十話 マリー・エドワーズは大広間の前でイヴとアーシャに会う
侍女長に案内され、マリーは大広間の扉の前に到着した。
一時はクエスト未達成になってしまうかと思ったワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が催されているパーティー会場前に来られた喜びと達成感でマリーの表情は晴れやかだ。
「マリーさん。控室は……」
侍女長がそう言いかけた時、大広間の扉の斜め前に設置されている魔方陣が光を放つ。
ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』に参加資格があるが遅刻をしたプレイヤーかもしれないと思いながらマリーが視線を向けると、そこには見知った顔の二人がいた。
イヴとアーシャだ。
「あっ!! マリー発見!!」
「えっ!? 嘘!? 本当だ。マリーちゃん、ワンピースドレス可愛い……っ!! 髪型も可愛い!!」
魔方陣から現れたイヴとアーシャはマリーに駆け寄ってくる。
プレイヤー同士の会話をNPCに聞かれるとまずいと思ったマリーは、侍女長に視線を向けて口を開く。
「あの、友達と行き会ったのでレイチェル様にお礼を言うのはまた今度にします。私は友達と合流するので、侍女長はもう、お仕事に戻ってください」
「わかりました。マリーさん。パーティーを楽しんでくださいね」
微笑んで言う侍女長に、マリーは笑顔で肯いた。
そして侍女長は大広間の大きな扉の隣にある小さな扉を『アンロック』で解除して室内に入っていく。
侍女長が去った直後に、イヴとアーシャがマリーと合流した。
「ねえねえ。今の人、誰っ!? なんか姿勢が良くてかっこいい感じの女の人だったね……っ」
イヴの質問攻めを曖昧な微笑みで受け流しながら、マリーは早々に侍女長と別れてよかったと心から思う。侍女長とイヴを引き合わせたら大変なことになるところだった。イヴのせいで侍女長の心労が増して白髪が増えたりしたら本当に申し訳ない。
マリー自身が結構やらかしているので、これ以上の面倒事はなるべく持ち込まないように気をつけたい。
「マリーちゃんもワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』に参加してたんだねえ。ウチ、乙女ゲーム大好きだからこのワールドクエストめっちゃ楽しみにしてたんだ!!」
アーシャの言葉を聞いて、楽しみにしていた割には遅刻したんだ……とマリーは思ったが人のことは言えない。マリーもこのクエストを楽しみにしていたがいろいろあって遅刻したのだ。
「ん? マリーちゃんってもしかして『マリー・エドワーズ』?」
「もしかしなくてもマリー・エドワーズですけど。アーシャさん。いきなりどうしたんですか?」
「うっわ!! そうだよね!! フレンド登録した時にフルネームが出てたはずなのになんでウチ、気づかなかったんだろうーっ!? 今まさに!! ウチの女神が目の前に……っ!!」
テンション高く大騒ぎするアーシャにマリーは引いた。まさか、イヴに助けを求めることになろうとは……と思いながらイヴに視線を向ける。
イヴは軽く肩を竦めて口を開いた。
「マリーがワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』を創造したんでしょ? だから女神って言って崇めてるの。アーシャは『フレデリック・レーン』ガチ恋勢だから」
「そうなのっ!?」
イヴの言葉を聞いたマリーは驚いてアーシャを見上げる。
アーシャは頬を染めて口を開いた。
「ワールドクエストを受ける時にフレデリック様のキャラグラフィックを見てひとめ惚れしました。緊張して気合入りすぎて着てくる服をなかなか決められなかったの……」
「恋の相手はNPCキャラでプレイヤーじゃないんだから、洋服とか気合入れたって変わんないんじゃない? ゲームの恋愛の結果って能力パラメータ値とかで決まるんでしょ?」
乙女ゲームプレイヤーの夢と希望を粉砕するイヴの言葉にマリーは慄いて震える。
「イヴさん。夢も希望もないことを……っ」
「『アルカディアオンライン』のNPCには心と美的な好みがあるのっ!! 着ている服とか大事だよ!! 能力パラメータ値がすべてじゃないからっ!! 大広間に入るよ……っ!!」
気合を入れて着飾っているアーシャと簡素なワンピース姿のイヴに続いて、マリーは大広間に足を踏み入れた。
***
若葉月25日 夕方(4時40分)=5月9日 20:40
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