第二百二十九話 マリー・エドワーズは侍女長に髪にリボンを編み込んでもらう



東棟の一階、一番奥の部屋の扉を開けて、侍女長はマリーとを招き入れた。

その部屋はマリーが以前、真珠と一緒に招かれたことがある侍女長の部屋だった。上品な印象の家具やベッドが配置され、相変わらず居心地が良さそうだ。

丸テーブルには椅子が二脚ある。

侍女長はマリーのために椅子を引いた。


「マリーさん。こちらにいらっしゃい」


侍女長に肯き、マリーは椅子の側に歩み寄る。

侍女長はマリーを抱き上げて椅子に座らせた。


「ありがとうございます」


椅子に座らせてもらったマリーは侍女長に頭を下げてお礼を言う。


「どういたしまして」


侍女長はそう言って化粧箱をテーブルの上に用意する。

マリーは侍女長の化粧箱はナナが使っていた化粧箱とは違うんだなあと思いながら、興味深く見つめた。


侍女長はマリーの白いリボンを解いてテーブルの上に置き、ブラシでマリーの髪を丁寧に梳かした。

それから、白いリボンをマリーの髪に編み込んでマリーの髪と似た色のピンでとめる。


「マリーさん。できましたよ」


「ありがとうございますっ。手鏡で見てみますね……っ。ステータス」


マリーはステータス画面を出現させてアイテムボックスから手鏡を取り出した。

虚空に突然手鏡が出現したが、侍女長は表情を変えずにマリーを見守る。


聖人の不可思議さについては、教会からの通達等で心得ていた。

手鏡をのぞき込んで、リボンが編み込まれた髪型を見て喜んでいるマリーは、年齢相応の愛らしい少女に見える。

だがマリーは聖人だ。選ばれた、特別な存在の一人だ。

侍女長はそのことを自分の心に刻みつけた。


髪型を一通り見て満足したマリーは手鏡を腕輪に触れさせて収納し、ステータス画面を消した。

そして高い椅子からぴょんと飛び下りる。


「マリーさん。はしたないですよ」


「ごめんなさい。つい……」


侍女長に窘められて、マリーは首を竦める。

確かに、今のは淑女らしくなかった。淑女は高い椅子から飛び下りたりしない。

侍女長はマリーが座っていた椅子を元に戻し、化粧箱を化粧台の前に戻した。


マリーは美しい所作でテキバキと動く侍女長の姿を見つめながら、侍女長の視線が外れているこの隙にクエスト内容の確認をすることができないだろうかと考える。

だがマリーがステータス画面を出現させる前に、作業を終えた侍女長がマリーに視線を向けて、大広間に案内すると言ったので、結局マリーがクエスト内容を確認することはできなかった。


***


若葉月25日 夕方(4時28分)=5月9日 20:28



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