第二百二十七話 マリー・エドワーズは大泣きをして救出され、侍女長の部屋に向かう



「あなたたち、何をしているのですか……っ!?」


侍女長の声がした。マリーが声がした方向を目で追う。

ナナが侍女長とレイチェルを呼んできてくれた。

侍女長とレイチェルの顔を見たマリーの目から涙が溢れる。


「グラディス様あ!! レイチェル様あ!! うわああああああああああああん……っ!!」


「マリーちゃん!! どうして拘束するようなことを……っ!!」


レイチェルが悲鳴のような声をあげる。

マリーは泣きながらワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が未達成になってしまったかもしれないと思った。

床に落ちているマリーの『招待状』をレーン卿が拾い上げる。


「その子が持っていたのは、母が出した『招待状』です」


大泣きしているマリーを拘束し続ける男の眼前にレーン卿は拾った『招待状』を突きつける。

マリーを拘束し続けている男が周囲で警戒している男にアイコンタクトをすると、周囲で警戒している男は小さく肯いて口を開いた。


「フレデリック様。それをこちらにお渡しください」


「これが危険な物ではないと、私が『鑑定』して証明します。鑑定」


レーン卿は『招待状』を鑑定して、無害なものだと断定する。マリーは泣き続けている。


「マリーさんは聖人です!! 『聖人の証』があるのが見えないのですか!? 今、あなたが押さえつけている小さな左手の中指をよくご覧なさい……っ!!」


侍女長はわあわあ泣いているマリーの前に屈みこみ、マリーを拘束している男を怒鳴りつけた。

マリーを拘束していた男は、マリーの左手の中指の付け根にある天使の羽根のような痣を確認して侍女長に頭を下げる。


「失礼しました」


男はマリーの拘束を解き、マリーは泣きながら侍女長に抱き着いた。


「グラディス様あ!! ごわがっだああああああああああああ……っ!!」


「そうですね。怖かったですね」


侍女長はマリーを優しく抱きしめて頭を撫で、それからレーン卿を睨み上げた。


「このような事態を引き起こしたのはフレデリック様のせいですよ。レイチェル様とパーティーに出席なさいませ。華のようなお嬢様方が多数、フレデリック様をお待ちです」


「フレデリックが礼装に着替えている時間はないわね。鑑定師ギルドの緋色のローブでもドレスコードにはかなっているから良いでしょう。グラディス。マリーちゃんをよろしくね。フレデリック。さあ、行きますわよ」


レーン卿は少しためらった後、侍女長にしがみついて泣いているマリーの頭をそっと撫でて頭を下げた。


「僕のせいで怖い思いをさせてすみません。マリーさんのご要望通り、パーティーに出席してきます。……行ってきますね」


「ううっ。ひっく。いっでらっじゃい……っ。ひっく、ひっく……っ」


ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が達成されるかもしれない。

希望を抱いたマリーは大広間に向かうレイチェルとレーン卿に小さく手を振った。

白地に赤いラインが入った制服を着た男たちはレイチェルとレーン卿に付き従う。


「マリーさんはわたくしの部屋に行きましょう。髪を結い直してあげるわ」


侍女長はそう言ってマリーに『クリーン』をかけた。そして、おろおろとマリーを見守っているナナに視線を向けて口を開く。


「ナナ。あなたはレイチェル様とフレデリック様のお世話をしなさい。いいですね?」


「はいっ。わかりました。侍女長」


ナナは侍女長に一礼して、小走りでレイチェルとレーン卿の後を追う。

マリーは侍女長に促され、東棟の一階、一番奥にある侍女長の部屋に向かった。


***


若葉月25日 夕方(4時07分)=5月9日 20:07



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