第二百二十六話 マリー・エドワーズはレーン卿に拉致られかけて抵抗し、護衛騎士に取り押さえられる
「そもそも、私は今、恋人が欲しいと思っていないのです。出会いがあって、好意を持てばアプローチをするかもしれないですけれど」
マリーは持っていた本をアイテムボックスにしまった後、ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』の主旨を全否定し始めたレーン卿の右腕にしがみつきながら、必死の形相でナナに視線を向けて口を開く。
「ナナさんっ!! 今すぐにレイチェル様か侍女長を呼んできてっ!! 至急で!! レーン卿がパーティーから逃げようとしてる、わあっ!!」
レーン卿は強引にマリーを抱き上げた。
「さあ。マリーさん。本をしまいに行きましょう」
「いーかーなーいーっ!! 誰かーっ!! レーン卿が幼女誘拐してますううううううううっ!!」
レーン卿に抱き上げられたマリーは両手両足をバタつかせて叫んだ。
館内で警備を担当している白地に赤いラインが入った制服を着た男たちが大騒ぎするマリーの声を聞きつけて駆け寄ってきたが、自分たちの警護対象の貴人が幼女を抱き上げている姿を見て戸惑い、足を止めた。
ナナは小走りで大広間の控室にいるであろうレイチェルと侍女長の元へと向かう。
「パーティーに行かないとかダメですからあああああっ!! 私の固有クエストが未達成になったらワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が未達成になっちゃうううううっ!!」
ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が創造された時、乙女ゲーム好きの女性プレイヤーはどれほど嬉しく、わくわくしたことだろう。
彼女たちはきっとワールドクエスト創造に成功した『マリー・エドワーズ』に感謝したことだろう。
乙女ゲーム好きの悠里は自分以外のプレイヤーが乙女ゲームのイベントっぽい、自分が参加できるクエストを想像してくれたら大喜びして感謝する。
それなのに、マリーがレーン卿に本を返そうとしたせいで『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が未達成になってしまうかもしれない!!
「こゆうくえすと? わーるどくえすと? それはどういう意味ですか?」
暴れるマリーを抱きかかえながら階段を上ろうとしたレーン卿が足を止めて尋ねる。
「レーン卿がパーティーに出席してくれたら教えますっ!! ステータス!!」
マリーはステータス画面を出現させてワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』のキーアイテムである『招待状』を取り出した。
警備を担当している男たちは、虚空から突然出現した『招待状』に警戒しながら携帯している剣の柄に手をかけた。
マリーは自分が警戒対象にされていることにはまったく気づかず、言葉を続ける。
「レーン卿が私のことを下ろして、パーティーに出席してくれたらこの『招待状』も見せますっ!! 『鑑定』してもいいですから!!」
「それは魅力的な提案ですね」
レーン卿はそう言って抱き上げていたマリーを床に下ろした。
その直後、マリーは白地に赤いラインが入った制服を着た男たちに確保され、床に身体を押し付けられた。
その時、マリーが手に持っていた『招待状』が床に落ちてしまう。
「怪しげな空間魔法を使う娘を拘束する……っ!!」
「フレデリック様。退避を……っ!!」
白地に赤いラインが入った制服を着た男たちにいきなり拘束されたマリーだったが『アルカディアオンライン』ではプレイヤーの痛覚設定は0パーセントになっていて痛みを感じない。
ただ、なぜ自分が犯罪者のように拘束されているのか理解できずに驚いて、怖くて、涙が滲む。
「マリーさんを解放しなさい」
「フレデリック様のご命令でも従いかねます」
レーン卿と、マリーを取り押さえた男たちがにらみ合う。
***
若葉月25日 昼(3時58分)=5月9日 19:58
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