第二百二十五話 マリー・エドワーズはユリエルからのメッセージを読み、緋色のローブを着たレーン卿に本を返却しようとする
「すみません。私のフレンド……じゃなくて友達からメッセージが来たみたいなので確認しますね」
「かしこまりました」
マリーはナナに断りを入れて口を開く。
「ステータス」
マリーはステータス画面を出現させて、フレンドからのメッセージを確認する。
メッセージの送り主はユリエルだった。
♦
マリーちゃん。メッセージをありがとう。
真珠くんも無事に目覚めたよ。真珠くんにマリーちゃんからの言葉を伝えたら、嬉しそうに尻尾を振っていた。
俺も真珠くんと一緒に頑張るね。
真珠くんが死に戻る時に、俺も死に戻ってマリーちゃんと合流できたらいいなと思ってる。
もうすぐパーティーの時間になると思うから、このメッセージには返信はいらないよ。
じゃあ、パーティーが終わったら連絡してね。お互いに楽しい時間が過ごせるといいね。
♦
マリーはユリエルからのメッセージを読み終えて微笑み、口を開く。
「クローズ」
画面を消して、マリーはナナに視線を向ける。
「あの、さっきの話ですけどレイチェル様とレーン卿に会えますか?」
「大広間に併設された控え室におられると思うのですが、マリーさんをご案内していいか、今、侍女長に確認しますね」
「あっ。だったらいいです。確認に時間がかかってパーティーが始まってしまうと困るので。とりあえずパーティー会場の大広間に行きます」
「かしこまりました。では大広間にご案内しますね」
ナナはそう言ってマリーを先導して部屋を出た。マリーはナナの背中を見ながら、彼女の後に続く。
階段を下りて一階に到着したその時、西棟から緋色のローブを着たレーン卿が現れた。
レーン卿は憂鬱そうな顔をしている。
マリーは本を返却するチャンスだと思い、小走りでレーン卿に近づいた。
「レーン卿……っ」
物思いに耽っていたらしい彼はマリーに呼びかけられて、瞬く。
それからレーン卿はマリーの姿を視界に移して微笑んだ。
「マリーさん。とても素敵な装いですね。よく似合っていて可愛らしいです」
「ありがとうございますっ。あの、このワンピースドレスはレイチェル様に貸してもらったんです。靴下と靴も」
「そのようですね。僕もそれを着せられた記憶があります」
私が今、着ているのは幼少時のレーン卿も着ていたワンピースドレス……!!
マリーはレーン卿の言葉に衝撃を受けたが、気を取り直して彼から借りた『北風と太陽』の本をアイテムボックスから取り出した。
「あのっ。本を貸してくれてありがとうございましたっ。真珠と一緒に読み終わったから返そうと思って……。ナナさんに預けてもいいですか?」
レーン卿に借りた本なので、領主館の使用人の誰かに預けるとしても、マリーはレーン卿からの許可を得たかった。
レーン卿はマリーの言葉に肯きかけたが、少し考えてから首を横に振った。
「僕の本は、自分で本棚にしまった方がいいでしょう。ナナ。母上には本をしまう用事ができたのでパーティーに行くのは遅れると伝えてください」
レーン卿がそう言ったその直後、サポートAIの声が響く。
「条件を満たしましたのでマリー・エドワーズに固有クエストが発生しました。
尚、このクエストは強制受注であり、緊急のものになります。
このクエストが未達成の場合、ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が未達成となります。
詳しくはステータス画面の『クエスト確認』をご確認いただくか、転送の間でサポートAIにお尋ねください」
「ちょっ!? 嘘でしょ……っ!?」
「マリーさん。どうされましたか?」
レーン卿は突然叫び出したマリーに不審なまなざしを向けて首を傾げる。ナナも怪訝な顔をしているが、沈黙を守った。
マリーは混乱しながら、考える。どうしたらいい? 本当なら『リープ』で転送の間に行くとかクエスト確認でクエスト内容を把握するところだけれど、今、この状況で、クエスト内容を確認している余裕はない!!
マリーは『失敗した場合ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が未達成となります』という言葉から、発生した固有クエストの内容を類推して口を開いた。
「レーン卿。もしかしてパーティーから逃げようとしてますか……?」
おそるおそる問いかけたマリーに、レーン卿は麗しい微笑みを浮かべた。
***
若葉月25日 昼(3時54分)=5月9日 19:54
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