第二百二十四話 5月9日/晩ご飯を食べた後にログインし、マリー・エドワーズはパーティーに行く支度をする



悠里は机に向かって勉強し、15:00には祖母が作ってくれた手作りプリンをおいしく食べてプリンの容器をキッチンで洗った後、晩ご飯ができるまで勉強を続けた。


晩ご飯を急いで食べ、歯を磨いて急いでシャワーを浴びる。髪を乾かし終えてトイレに行き、自室に駆け込んで部屋の電気をつけ、スマホで時間を確認すると19:25だった。


「ヤバいっ。先輩との約束に遅れちゃう……っ」


悠里はベッドの上にそのまま置きっぱなしにしていたヘッドギアとゲーム機の電源を入れてヘッドギアをつけた。

パジャマ姿でベッドに横になり、目を閉じる。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


転送の間でサポートAIに見送られながら、悠里は鏡の中に駆け込む。


目を開けるとレイチェルが子どもの頃に使っていた天蓋付きベッドの上にいた。部屋の中は明るい。

ゲーム内時間は昼だろうか。部屋の中にオレンジ色の光が差し込んでいないので、まだ夕方ではないはずだ。


「マリーさん。お目覚めですか?」


隣に真珠がいないことを寂しく思いながら起き上がると、ベッド脇から声を掛けられた。

マリーが、声がした方に視線を向けると何度もマリーと真珠の世話をしてくれている侍女、ナナがいた。


「ユリエル様より、マリーさんがパーティーに行くための装いのお手伝いをするように命じられました。着替えをお手伝いしても宜しいですか?」


「ちょっと待ってください。私、ユリエル様にメッセージを送るのでっ。ステータス」


マリーはステータス画面のフレンド機能を使って、フレンドの一人であるユリエルにメッセージを書く。





ユリエル様。マリーです。今、ログインしました。

これからパーティーに行きますね。ナナさんに私を手伝うように言ってくれてありがとうございます。


真珠はもう目覚めましたか? 真珠をよろしくお願いします。真珠は可愛くてかっこよくて賢い子なのでユリエル様に迷惑をかけることはないと思うんですけど……。

モンスター討伐、頑張ってくださいね。真珠にも『頑張って』と伝えてもらえたら嬉しいです。





マリーはメッセージ内容を読み返して小さく肯き、メッセージを送信した。


「クローズ。ナナさん。お待たせしました。着替えます」


「かしこまりました」


ナナはマリーに一礼してクローゼットに向かう。

そして、クローゼットを開けて濃い青色のワンピースドレスを、引き出しを開けてレースがついた白い靴下を取り出す。

それから、シューズボックスを開けて白いパンプスを取り出した。

マリーは夜着を脱いで畳み、ベッドの上に置く。

その後、ベッド脇に置いてあったふわふわのスリッパを履いて、ナナの元へと向かった。


ナナに濃い青色のワンピースドレスを着せてもらい、レースがついた白い靴下を履き、白いパンプスを履く。

そうだ。白いリボンを髪に結んでもらおう。


「ステータス」


マリーはアイテムボックスから『白薔薇蜘蛛糸のリボン』を取り出す。

ナナはマリーが何もない虚空を指先で触れた後、突然『白薔薇蜘蛛糸のリボン』が出現してわずかに目を見張ったが、平常心を取り繕うことができた。

ナナは上司である侍女長から『聖人』の特性とその扱いについて、言い含められている。


「ナナさん。リボンを髪に結んでもらえますか?」


「かしこまりました」


ナナはそう言ってマリーのためにテーブルに備え付けられた子ども用の椅子を引いてくれた。

マリーは少し気取ってナナに一礼した後、椅子に座る。

ナナはテーブルの上にある化粧箱からブラシを取り出してマリーの髪を丁寧に梳かした。

ナナがマリーの髪を梳かし終えた時、マリーは『白薔薇蜘蛛糸のリボン』をナナに渡す。

ナナはヘアバンドのように白いリボンを結び、マリーの髪を彩った。


「マリーさん。髪にリボンを結び終えました」


「ナナさん。ありがとうございますっ」


マリーは自分の姿を確認したくてアイテムボックスから貰った手鏡を取り出す。

ナナは聖人の不思議な魔法についてマリーに聞いてみたい気持ちをぐっと押し殺して、静かに側に控えた。


マリーは手鏡で自分の姿を確認して満足すると、手鏡をアイテムボックスに収納した。

本当に、このアイテムボックスは便利だ。リアルにもアイテムボックスがあればいいのになあと悠里は思う。

そうだ。手鏡を貰ったお礼をレイチェルに伝えなければ。手鏡のことだけでなく、このワンピースドレスやレースがついた白い靴下、白いパンプスを借りているお礼も言いたい。

部屋とベッドを使わせてもらったことも感謝していると言わなければいけない。

それから、レーン卿に会って借りていた本を返したい。


「あの、ナナさん。私、レイチェル様とレーン卿に会いたいんですけど……」


マリーがそう言ったその時、可愛らしいハープの音が鳴った。

フレンドからメッセージが来たようだ。


***


若葉月25日 昼(3時49分)=5月9日 19:49





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