第二百二十二話 高橋悠里は憧れの先輩にゲームでの予定を伝えて、母親にグレーの不織布マスクをねだる
悠里は屈伸をやめて机の上のスマホを手に取る。
要からの直電だ。
悠里は緊張しながら通話する。
「はいっ。高橋ですっ」
「藤ヶ谷です。高橋さん、今話しても大丈夫?」
「はいっ。大丈夫ですっ」
悠里は何度も肯きながら答える。
要と通話できるのは嬉しいけれど緊張する。
「メッセージ読んだよ。真珠くんが死に戻りしたら俺も死に戻って教会で高橋さん……じゃなくてマリーちゃんと合流できたらと思うんだけど、いいかな?」
「はいっ。あの、私、死に戻る前に藤ヶ谷先輩……じゃなくてユリエル様にゲーム内でメッセージを送りますね。えっと、メッセージの通知の設定とかはフレンド機能で行えるみたいです。私は転送の間でサポートAIさんにフレンドからのメッセージが来たらわかるように設定してもらったんですけど」
「そうなんだ。じゃあ、今からログインして、転送の間でメッセージ通知の設定を確認してみるね。じゃあ、またゲームで」
「はいっ。失礼します……っ」
悠里は要との通話を終えて、息を吐いた。
憧れの先輩と話せるのはすごく嬉しいけれど緊張するので疲れる。でもすごく嬉しい。
「あっ。そうだ。私、藤ヶ谷先輩が使っていたグレーの不織布マスクが欲しかったんだ」
母親に、グレーの不織布マスクが欲しいとねだってみよう。
悠里はスマホで『グレーの不織布マスク』で検索をして、母親がよく使っている販売サイトに表示されている不織布マスクの画像を表示させた後、母親の元に向かった。
母親はダイニングでシチューが入った皿を並べていた。
祖母はレタスやトマト、スライスしたたまねぎが入ったサラダの小鉢を並べている。
「お母さん。あのね。買ってほしいものがあるの」
「後にして。今、昼ご飯の準備をしてるから」
「今言わないと、忘れちゃうからっ」
実際、悠里は要とおそろいのマスクをねだろうと思っていたことをさっきまで忘れていた。
駄々をこねる悠里に母親がまなじりをつり上げたその時、祖母が会話に割って入った。
「お昼ご飯の準備は私がするから、お母さんは悠里の話を聞いてあげて」
「お祖母ちゃんっ。ありがとう……っ」
悠里は祖母に感謝のまなざしを向けてお礼を言った。
母親はため息を吐いて口を開く。
「もう。お祖母ちゃんは悠里に甘いんだから……。それで悠里はなにが欲しいの?」
「これっ。このグレーの不織布マスクが欲しいの……っ」
悠里は準備していたスマホの画面を母親に見せながら言う。
「グレーなんて地味じゃない? 悠里が使うならピンクの方がいいんじゃない?」
母親の言葉に悠里の心は少し揺れた。
ピンクの不織布マスクは可愛いと思う。でもやっぱり要とおそろいのグレーの不織布マスクが欲しい。
「グレーがいいの。グレーだったら、お父さんやお祖父ちゃんも使えるでしょう?」
「まあ、そうね。いいわよ。買ってあげる。スマホを貸して。アカウントとパスワードなんだっけ……?」
「私、わかるよっ。お母さんのアカウントとパスワード」
高橋家のセキュリティーは家族間においてガバガバだ。本当は自分のアカウントとパスワードは自分だけで管理しなければならないのだが、母親や祖母の会員登録を悠里が代行して行うことが多いので母親や祖母のアカウントとパスワードについてはおおよそ把握している。
悠里は母親のアカウントとパスワードを使ってサイトにログインした。
そしてログイン画面を母親に見せる。
「あら。使えるポイントが5320ポイントもある。ポイントで買っておいて」
「了解ですっ」
悠里はグレーの不織布マスク1箱を、ポイント決済した。
マスクの代金の他に送料がかかるけれど、それは仕方がない。
それを考えると全国一律送料無料で米の販売を決行した『アルカディアオンライン』はすごいと思う。
買い物を終えた悠里はサイトからログアウトした。
***
若葉月24日 朝(2時54分)=5月9日 11:54
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