第二百二十一話 マリー・エドワーズはレイチェルが子どもの頃に使っていた部屋でログアウトして、高橋悠里は憧れの先輩にメッセージを送る



マリーはナナの背中を見つめながらユリエルの部屋を出て、レイチェル様が子どもの頃に使っていた部屋に戻る。


ベッドの上にはナナが畳んだシルクの夜着はなかった。マリーと真珠が寝ていたベッドも綺麗にベッドメイクされている。

ナナはクローゼットからシルクの夜着を取り出して、ベッドに置いた。

そしてベッドサイドに置いてある子ども用のふわふわなスリッパをマリーの足元に置く。

さっき部屋にいた時、マリーが勝手に使っていたふわふわなスリッパだ。

悠里は家にいる時はスリッパを履かない派なのだが、こういうスリッパがあったらリアルでも履きたいと思う。


『銀のうさぎ亭』の家族用の段差の大きい階段を上がって二階にある部屋の、いつもマリーと真珠が寝るベッドの側には布でできた簡素なスリッパがあって、マリーは寝起き直後、木靴を履く前に使っているのだが、このふわふわなスリッパとは比べ物にならない。

マリーの家族にも、このふわふわのスリッパを使わせてあげたいと思いながら、マリーはワンピースドレスを脱いで夜着に着替えた。

それからナナに結んでもらったリボンを解いてアイテムボックスにしまい、綺麗にベッドメイクされているベッドに潜り込む。


「おやすみなさい。ナナさん。リボンを結んでくれて、お菓子や飲み物を持ってきてくれてありがとうございます」


「マリーさんのお役に立てて嬉しいです。ではごゆっくりお休みください」


ナナに微笑み、マリーは目を閉じて小さな声で呟く。


「ログアウト」


『アルカディアオンライン』をログアウトした悠里は自室のベッドの上で目を開けた。

ヘッドギアを外して起き上がる。


「強制ログアウトじゃなくて普通にログアウトできると、なんか達成感がある」


悠里はヘッドギアとゲーム機の電源を切った。夜にまたゲームで遊ぶので、ヘッドギアとゲーム機をつないでいるコードはそのままにしておく。


「無事にログアウトできたって藤ヶ谷先輩にメッセージを送ろう」


悠里はベッドを下りて、机の上に置いてあるスマホを手に取る。


「今って11:37なんだ。お昼前にログアウトできてよかった」


12:00になっていたら家族の誰かが悠里を呼びに来て、悠里の身体を揺すっていたことだろう。

そうしたら、強制ログアウトすることになっていた。

悠里はそんなことを思いながら、要にメッセージを書く。





藤ヶ谷先輩。無事にログアウトできました。

先輩と真珠と、おいしいお菓子を食べてお喋りできて、すごく楽しかったし嬉しかったです。

マリーのワンピースドレスを選んでもらえたこともすごく嬉しかったです。ありがとうございます。

また夜にゲームで会えたら嬉しいです。でも、私と会うことより、先輩のゲームの都合を優先してくださいね。


私はワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』を終えたら死に戻りして、教会から『銀のうさぎ亭』に戻ろうと思っています。

たぶん、私が死に戻ると真珠も死に戻ると思うので、びっくりしないでください。

『銀のうさぎ亭』に戻ったら、先輩から受け取った『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書をお祖父ちゃんに返そうと思います。


先輩と真珠はどんな風にモンスター討伐をするのでしょうか。

真珠にも話を聞きますけど、先輩からも話を聞かせてもらえたら嬉しいです。





悠里は要へのメッセージを読み直して確認した後に送信した。

その後、スマホを机の上に置いてつま先立ちになり、伸びをする。


「『アルカディアオンライン』で遊ぶのは楽しいけど、ずーっとベッドに寝てるから、身体が固まっちゃいそう……」


悠里はそう言いながら屈伸をした。


「そういえば、結局『九星堂工房』のこと、見に行けないままだし、はるちゃんとはまだ会えてないんだよね。『アルカディアオンライン』は面白いけど忙しいよね……」


屈伸をしながら悠里がそう言った時、机の上のスマホが鳴った。


***


若葉月24日 朝(2時46分)=5月9日 11:46



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