第二百十七話 マリー・エドワーズと真珠はユリエルの部屋に招かれる
ナナに案内され、マリーと真珠が到着したのは領主館の中央に位置する本館の四階にある部屋ではなく、レイチェルが幼少時に使っていた部屋の隣にある部屋だった。
……予想外に近い。
ナナが扉をノックして、静かに扉を開けた。
「わあ……っ!!」
「わおん……っ!!」
部屋の中にはぬいぐるみやボードゲームが置かれていて、本棚には絵本が立てかけられている。
さっきまでマリーと真珠がいた部屋にあった家具と似た、角が丸いデザインのものが置かれていてまるで子どものためのお城のようだと悠里は思う。
悠里が幼稚園児の頃、こんな部屋があったらきっと大喜びしていただろう。
椅子に座り、子ども用のテーブルに置かれた可愛らしいお菓子を摘まんでいたユリエルはマリーに視線を向けて微笑んだ。
「マリーちゃん。真珠くん。会えてよかった。マリーちゃん、濃い青色のワンピースドレスがよく似合う。可愛い」
「ありがとうございます……っ」
「わうーっ。わううわっ」
「真珠も褒めてくれてありがとう」
「マリーちゃんと真珠くんも座って。一緒にお菓子を食べよう。マリーちゃんと真珠くんにも飲み物を持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
ナナはマリーのために椅子を引いてマリーを座らせ、真珠がマリーの膝の上に飛び乗る。
ナナはユリエルに一礼して部屋を出て行く。
「まずは『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を渡すね。ステータス」
ユリエルはアイテムボックスから『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を取り出して、マリーに差し出す。
マリーはユリエルから『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を受け取って笑顔になる。
「ありがとうございます!!」
「どういたしまして」
マリーは受け取った『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書をアイテムボックスに収納し、きちんと収納されているかステータス画面を出現させて確認した。
真珠はテーブルの上にあるお菓子が気になったが、ユリエルとマリーのやり取りを邪魔しないようにおとなしくしている。
「よかった。これで私たち、ずっと『銀のうさぎ亭』で暮らせるよ」
「わんわんっ」
真珠はいつもマリーと一緒に眠るベッドがあるおうちにずっといられるとわかって嬉しくなった。
尻尾を振ってはしゃぐ真珠の頭をマリーが優しく撫でる。
喜ぶマリーと真珠を微笑ましく見つめていたユリエルは、ウォーレン商会の会頭アーウィン・ウォーレンの処遇を話さなければならないと思い、憂い顔になる。
「マリーちゃん。ウォーレン商会の会頭アーウィン・ウォーレンの処遇のことなんだけど……『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を詐取したことは立証された。でも、それは『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を持ち主に返却するという形で贖われたとするようにと父上に内々で命令があったみたいなんだ」
「命令? 誰の命令ですか? 領主様より偉い人がいるんですか?」
「くぅん……?」
「大教会の教皇からの命令らしい。高位聖職者の汚職が明るみに出ることを嫌ったみたいなんだ……」
マリーはマリーにとっての悪人NPCであるウォーレン商会の会頭アーウィン・ウォーレンが罪を逃れることが悔しかったが、その一方で晴菜の主人公であるマーキース・ウォーレンの父親が処罰されずにほっとした。
晴菜の許可を得ず、晴菜がウォーレン商会の会頭の息子を主人公キャラに選んだことを要に知らせることは悠里のプレイヤー善行値を下げる行為かもしれないが、それでも要に晴菜の主人公のことを告げた方がいい。
マリーは緊張しながら口を開いた。
***
若葉月24日 早朝(1時42分)=5月9日 10:42
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます