第二百十五話 マリー・エドワーズは濃い青色のワンピースドレスに着替えて髪を梳かしてもらう



部屋に入ってきたのは黒髪で黒い目のメイド服を着た少女、ナナだ。

ナナは領主館の侍女長、グラディス・ブロックウェルに指導を受けていて、何度かマリーと真珠の世話をしてくれている。

でも、この前、マリーは問答無用でナナに抱き上げられて運ばれたので、少し警戒しながらナナを見つめる。

真珠はマリーとナナの顔を見比べながら、どうしていいのかわからずに戸惑った。

ナナは手に持っていた化粧箱をテーブルに置き、口を開いた。


「お目覚めだったんですね。おはようございます。マリーさん、真珠さん」


今回は問答無用でナナに抱き上げられることはないようだ。

マリーはほっとして微笑み、口を開く。


「おはようございます。ナナさん」


「わうわうわうぅわう」


マリーと真珠はナナに挨拶をした。


「マリーさん。着替えの手伝いをさせて頂けますか?」


ナナに言われて、マリーは今の自分の格好を見た。

マリーはシルクの夜着を着ている。誰かがマリーを着替えさせてくれたのだろう。

そういえば貰ったレースのリボンはどこにあるのだろうか……?

不安になったマリーが自分の髪を触り、リボンが無いことを確認して俯く。

そんなマリーの様子を見て、ナナが口を開いた。


「マリーさんの『白薔薇蜘蛛糸のリボン』もお持ちしています」


「ありがとうございます……っ」


マリーはほっとして、ナナにお礼を言う。

強制ログアウトは突然のことだから、大切な装飾品等をアイテムボックスにしまう間もなく睡眠状態に陥ってしまう。


プレイヤーには『プレイヤー善行値』があるので、プレイヤーのものを盗むことはしないかもしれないが悪いNPCは眠りに落ちたプレイヤーの装備品やアイテムを持ち去ってしまうかもしれない。

マリーはなるべく通常ログアウトを心がけようと改めて思う。


ナナは部屋にあるクローゼットを開けて濃い青色のワンピースドレスを、引き出しを開けてレースがついた白い靴下を取り出す。

それから、シューズボックスを開けてマリーが以前履かせてもらったことがある白いパンプスを取り出した。


「こちらはレーン卿のお母様で、現在の領主様の妹君のレイチェル様が幼少時に身に着けていたものから、領主様のご子息のユリエル様がマリーさんのために選んだものです」


「ユリエル様が私のために……っ!?」


マリーは可愛い中にも少し大人っぽさが混じる濃い青色のワンピースドレスを見つめて頬を染めた。

一刻も早く着替えたくて、急いでシルクの夜着を脱ぐ。

ナナはベッド脇に白いパンプスを置き、マリーにレースがついた白い靴下を手渡した。

マリーが靴下を履いているうちに、ナナは脱ぎ捨てた夜着を手早く畳んでベッドの上に置く。

靴下を履き終えたマリーは置かれた白いパンプスを履き、ナナに濃い青色のワンピースドレスを着せてもらった。

真珠はバタバタと着替えるマリーとナナの邪魔をしないように、ベッドの上でおとなしくお座りをしてマリーを見守る。


濃い青色のワンピースドレスを着たマリーは、テーブルに備え付けられた子ども用の椅子に座り、ナナに髪をブラシで梳かしてもらう。

真珠はベッドから飛び下りて椅子に座るマリーの元に駆け寄り、マリーの膝の上に飛び乗った。

マリーは自分の膝の上に座る真珠の背中を撫でながら、口を開く。


「ナナさん。この部屋って、もしかしてレーン卿のお母様のレイチェル様が子どもの頃に使っていたんですか?」


「はい。そうです。レイチェル様とユリエル様が、マリーさんにこの部屋を使っていただくようにと仰ったようです」


マリーの髪をブラシで梳かし終えたナナは『白薔薇蜘蛛糸のリボン』でヘアバンドのようにマリーの髪を彩る。

そしてナナは化粧箱の中から小さな可愛い手鏡を取り出して、マリーに差し出した。


「お仕度が終わりました。鏡でご確認ください」


「ありがとうございます……!!」


マリーは大喜びで、ナナから手鏡を受け取った。


***


若葉月24日 早朝(1時12分)=5月9日 10:12

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