第二百十四話 マリー・エドワーズは真珠と一緒に『北風と太陽』を最後まで読む
マリーはベッドに背中を預けて座り、真珠と身体をくっつけ合って『北風と太陽』のページをめくる。
「どこまで読んだっけ?」
マリーは小さな手でゆっくりと本のページをめくる。
「わんわんっ」
真珠は本のページを、前足でポンポンと叩いた。
真珠は文字が読めないが、読み途中のページにあった挿絵を覚えていたのだ。
「そうだね。このページだったね」
マリーは真珠に微笑み、朗読を始めた。
真珠は読めない文字を見つめながら、マリーの声に耳を傾ける。
以前、真珠はマリーに『北風と太陽、どっちが旅人のコートを脱がせることができると思う?』と問いかけられて『北風』と答えた。
だから真珠は強い風を吹かせて旅人のコートを吹き飛ばそうと頑張る北風を応援する。
「わうわおっ!! わんわん……っ!!」
マリーは懸命に北風を応援する真珠を愛しく思いながら、朗読をすすめる。
北風が吹かせた強い風にこごえた旅人は、自分の両手で必死にコートの前をかき寄せ、身を縮めて歩き続ける。
真珠は北風が旅人のコートを脱がせることができず、太陽の順番が来てしまったことにがっかりして項垂れた。
マリーはがっかりしている真珠の頭を優しく撫でて口を開く。
「真珠は北風を応援していたのに、残念だったね」
「くぅん……」
「もう、本を読むのをやめる?」
マリーに問いかけられた真珠は少し考えて、首を横に振る。
真珠はお話の続きが知りたいと思った。
「じゃあ、続きを読むね」
マリーは本の続きを朗読し始めた。
真珠は真剣なまなざしで本のページを見つめ、挿絵を眺めながらマリーの声に耳を傾ける。
「太陽は空に姿を現して、旅人を照らします」
真珠が予想したように、太陽はただ空に在るだけだ。きっと、旅人のコートを脱がせることはできない。
だが真珠の予想に反して、太陽の熱で地面が温められ、空気が温められて、太陽の光を浴び続けた旅人の身体も熱くなり、旅人は自ら着ていたコートを脱いだ……!!
「わうんっ!?」
太陽はただ、空で輝いていただけなのに……!!
真珠は太陽が北風との『どちらが旅人のコートを脱がせることができるのか』という勝負に勝ったことに驚いた。
マリーは勝負を終えて、北風と太陽が互いの健闘をたたえ合っている場面を読み終えて、本を閉じた。
「『北風と太陽』はこれでおしまい。真珠、面白かった?」
「わううわわっう!!」
真珠は耳をピンと立て、激しく尻尾を振ってマリーに喜びを伝える。
マリーは真珠の頭を撫でた後、本をアイテムボックスにしまった。
『北風と太陽』はレーン卿に借りた本なので汚さず、破損させずに返却しなければならない。
本を読み終えたマリーと真珠は、手持ち無沙汰になってしまった。
「真珠。本を読み終えたから暇になっちゃったねえ。なにして遊ぶ?」
「きゅうん……?」
マリーに問いかけられた真珠が首を傾げたその時、部屋の扉が静かに開いた。
***
若葉月24日 真夜中(6時59分)=5月9日 9:59
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