第二百十三話 マリー・エドワーズは見覚えがない部屋で目覚め、アイテムボックスから本を取り出す
転送の間でサポートAIに見送られながら、悠里は鏡の中に入っていく。
……目を開けると暗かった。ベッドらしきところに寝ているような気がする。
「ステータス」
マリーはステータス画面の明かりで周囲を確認することにした。
……天蓋がある。でもレーン卿が子どもの頃に使っていた天蓋付きのベッドではない。
ピンク色の布とレースで作られた天蓋付きのベッドは、少女のために作られたもののような気がする。
部屋の中に、マリー以外の人影は無さそうだ。
「ここ、どこ……?」
見覚えが無い部屋だけれど、たぶん領主館の中にある一室だろうとマリーは見当をつけた。
「わんわんっ」
マリーの隣から元気な声がする。真珠だ。
「真珠。おはよう」
「わうわぅ。わうー」
マリーの隣に寝ていた真珠がマリーに身体をすり寄せる。
「真珠。ここってどこだろうね……?」
「くぅん……?」
部屋が暗いので、夜か真夜中の時間帯なのかもしれない。
「真珠はここにいてね。私は部屋の明かりをつけられるか探検してくるからね」
「わんっ」
マリーはステータス画面の明かりを頼りにベッドを下りた。
部屋の中を見回すと、レーン卿が子どもの頃に使っていた部屋に似た作りのような気がする。
家具やテーブルの角は丸く、本棚等は子どもでも手が届くようになっている。
部屋の明かりをつけるスイッチも、マリーの手が届くところにあった。
マリーは背伸びをして、スイッチに触れて明かりをつけた。
部屋が明るくなったので、マリーはステータス画面を消す。
「真珠っ。部屋が明るくなったよ……っ」
「わんわんっ」
マリーはベッドで待っている真珠の元に戻り、真珠をぎゅっと抱きしめた。
真珠はマリーに抱きしめてもらえて嬉しくて、尻尾を振り、青い目を細める。
マリーは真珠を抱く腕を解き、真珠の目を見つめながら口を開いた。
「真珠。私ね、今日、ユリエル様と会う約束をしてるの。たぶん、ユリエル様が会える状態になったら私と真珠のことを迎えに来てくれると思うんだ」
「わんっ」
「だから、真珠は私と一緒にここでユリエル様を待とうね」
真珠はマリーの言葉に肯いた。
「でも待ってる間、暇だね。そうだ。この前借りた本を読もうか」
「『わうわおわわうわう』!!」
真珠は本のタイトル『北風と太陽』と口にした。
「真珠は『北風と太陽』のこと、覚えていたんだね。偉いね。今、アイテムボックスから本を出すからね。ステータス」
マリーはステータス画面をタップして、アイテムボックスからタイトルに『北風と太陽』と書かれた本を取り出した。
***
若葉月24日 真夜中(6時48分)=5月9日 9:48
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